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勅封秘仏の風格を眼前に-石山寺・如意輪観音の旅 その3

”優しいなかにもご本尊としての力強さ、威厳を同時に感じるのでありました……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。ここ数回は、滋賀・石山寺をテーマにブツブツ書いております。

※出かけたのは6月、ちょうど緊急事態が解除され状況が収まりかけていたタイミングでのこと。現地に迷惑を掛けないよう、充分に感染対策しての旅でした。

前回は、石山寺の毘沙門堂を訪れ、その歴史とともに毘沙門天の役割の変遷を追いました。

そして、ようやく本堂に参ろうと思います。


いよいよ本堂へ!

岩盤の斜面に立つ、懸造の大きな本堂。横から入って受付し、中へ進むと暗い内陣が見えます。

その奥に、ぼうっと浮かび上がるように照明で照らされて、勅封本尊・如意輪観音菩薩が見えました。
勅封(ちょくふう)とは、勅命(天皇の命令)によって封印されたという意味。その経緯は不明ですが、勅封以降は、33年に一度のタイミングと天皇即位の翌年というタイミングで特別開扉されています。


優しさと威厳に包まれた巨大観音

さて奥へ進むと、本尊のすぐ前まで行くことができます。目の前で対面するご本尊は、なにしろ大きい。
座っている姿で約3メートル弱。首を上に向けて見上げると、ご本尊の目がこちらを見下ろしてきます。
朝日新聞デジタルの記事(下記)に、参拝者を含めた写真が載っていて、サイズ感がよくわかります。

お寺のHPによると「一丈六尺(約5メートル)」とあって、新聞記事もこれを鵜呑みにして像高が5メートルと取れる書き方がされていますが、この数値は、この像が立ち上がった場合の身長を指していると思われます。

釈迦の身長が一丈六尺であるとの伝説から、仏像の基本サイズは「丈六=一丈六尺」とされました。メートル換算で約4.8m。ただしこれは立像の場合の高さであり、坐像の場合は2.4~3m弱くらいになるわけです。
この基準にならって仏像を造ると、屋外の銅像ならまだしも、堂内に安置するにはかなりの大きさなんですよね。
石山寺の本尊はこの基準にならって「丈六サイズ」の坐像なのですが、巨大な厨子のなかに収まってかなりの迫力です。

写真を見せたいところなんですが、そのためには許諾を得て使用料を納める必要がありますが、そんな予算はございません。
産経、朝日の記事(この記事下にリンクあり)で、きれいな写真が出ているので、あとでご覧ください。


その姿は、大仏のように足を組んで座るのではなく、左脚を台座の下に下している「半跏踏み下げ」の姿勢。

その左ひざのあたりに、左手を置いて、手のひらを上に向けています。
これは「与願印」といって、功徳を衆生に与える意味があるとされます。

右腕は、蓮の花を指でつまむように持っています。この指使いがとても繊細。大切な物を丁寧に持つように、やさしく蓮の茎を持っています。
なで肩の姿勢にこちらの方の力も抜けます。


今年の御開扉ポスターより。写真だと少し印象がちがいます。チャンスがあればぜひ実物を拝んでください

お顔もあくまで柔和で、優しい表情。
両目は、外陣から見ると半眼に見えますが、今のこの位置、直前に立って見上げる位置からだと目を見開いているように見え、
厨子の前に立つ自分に温かみのある視線を下ろしています。
永長元年(1096)の作であり、平安時代後期らしい風雅な趣が見事に表現されています。
腕や腰にかかる衣がしなやかな曲線を描いて、なんともやわらかそう。

やわらかな姿勢と表情ではありますが、なにしろこの巨大な体躯ですからね。像を間近に拝むとその存在感に圧倒されます。
張りのある胸、図太い腕、への字に結んだ口元など、優しいなかにもご本尊としての力強さ、威厳を同時に感じるのでありました。

一般的に、観音には母のような慈悲を感じるとかよく言われますが、そういうのは江戸時代ごろに「慈母観音」が流行って、女性的なイメージが定着したのであって、この石山寺のご本尊はそれより約600年以上前のもの。ひとくちに言うと「王の威厳」といった風の、頼もしさ力強さがあるのです。


スーパーウルトラな観音?

本来、如意輪観音菩薩は、インドの王を模して、「輪王坐」と呼ばれる座り方をします。つまり如意輪さんは王様なんですね。観音さんにも十一面や千手などさまざまな変化観音がいるなかで、その最終進化形が如意輪観音というわけです。
くだけた言い方をすると、もっとも強大なパワーをもつ、スーパーウルトラ観音とでもいいましょうか。それが如意輪観音のキャラクターです。

本来は、そうした特殊な座り方に、六本の腕があるのが通例なのですが、ここ石山寺の像は、半跏ふみ下げの坐法で二臂(にひ:腕が2本)という姿。

世間の仏像解説本にある如意輪観音の姿とはだいぶ違います。まるで大仏のような貫禄をたくわえ、きらびやかな冠と胸飾りを付けているので、ちょっと大日如来(如来のなかでスーパーウルトラな存在。詳しくは検索して)に通じるような印象もあります。

如来のような観音がなぜ如意輪観音なのか。
スーパーウルトラ観音だからなのか?


石山寺本堂を下から眺める。清水寺、長谷寺に並ぶ懸造の本堂

世間に出回っている仏像本でも、「如意輪観音には二臂像もある」くらいしか書かれていないので、「なぜ」という問いに明確な答えは無いのかもしれません。

しかし、調べてみると、やっぱりナゾを追っている研究者の方もいらっしゃるようですね。そういった研究を参考にして、「なぜ如意輪観音」の話をもう少し進めてみたいと思います。



(石山寺如意輪観音の写真掲載)

石山寺で如意輪観世音菩薩の特別公開始まる:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20160318003621.html

大津・石山寺で秘仏「如意輪観世音菩薩」を4年ぶり公開:SankeiBiz
https://www.sankeibiz.jp/business/news/200318/bsm2003181536017-n1.htm



(参考)
大本山 石山寺公式ホームページ
https://www.ishiyamadera.or.jp



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宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m