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第259回 特別展「最澄と天台宗のすべて」仏と猿の神世界? 山王権現曼荼羅

”お猿さんがお供え物を供えている様子が描かれています……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。年に一度の演奏会「小唄 in 神楽坂」を無事に終えまして、ほっとしている宮澤やすみです。これを終えると冬が近いのを実感いたします。

さて、先日東京国立博物館の平成館で開幕した「最澄と天台宗のすべて」。
「すべて」とタイトルにあるように、天台の教義伝来、比叡山の隆盛、各地への伝播と、天台宗を網羅した非常に内容の濃い展示です。
(以下、写真は報道内覧会で許可を得て撮影したもの)

先週この連載では、異様な存在感を示す大秘仏、深大寺の元三大師像を紹介しました。


展示室内、伝教大師最澄坐像と天台高僧像(報道内覧会で許可を得て撮影)

たくさんの展示の中で、わたしの目にとまった掛け軸があります。

それが、日吉山王(ひえさんのう)本地仏曼荼羅。

作品解説には、
「比叡山に祀られる諸神を、仏の姿を借りて描いたもの」
とあります。

日吉山王とは、比叡山の守り神のことで、かつては山王権現という言い方もされて、長い間延暦寺と天台宗の守護神として信仰されました。
現在は延暦寺と日吉大社は別々の存在になっていますが、明治より前の神仏習合の時代では、神社とお寺が一体になっていたわけです。

いくつも呼称がありますけど、

 日枝(ひえ=比叡)
 日吉(”ひえ”とも”ひよし”とも読む)
 山王(さんのう)

という呼称は同一の神社を指します。このなかで「山王」は、神仏習合時代の呼び方。現在は「日吉大社」が正式名称です。


日吉大社の風景(2017年撮影)

で、同一の神社ではあるんですけど、ここは大きな神社なので、ぜんぶで21(数え方によって22)の神を祀る複合施設であるところがミソなんです。
それぞれの神に、

1.神仏習合時代の名前
2.神の本体(本地仏)の名前
3.神仏分離以降の名前

というぐあいに、三種類の名前が付けられていて、これまた本当にややこしいことになっているんですよね。

日吉山王信仰を研究する人は、21×3=63もの神仏の名前と組合せを整然と覚えて、スラスラ言えるようになってるんでしょうか。もちろんわたしはスラスラ言えません。
詳しくはWikipediaなんかにも載ってるので、気になる人は見てみてください。なかには「八王子」とか馴染みのある名前も見えます。

今回の展示物は、もちろん神仏習合時代の古いものですから、山王信仰の神々が、本地仏つまり仏像で表現されています。

下の写真がその本地仏曼荼羅。
写真ではちょっと見づらいですが、現場ではわりとはっきり見えるのでぜひお見逃しなく。

たとえば手前の掛け軸では、絵の右上から

千手観音 (八王子権現の本地仏)
普賢菩薩 (三宮  〃    )
釈迦如来 (大宮  〃    )
阿弥陀如来(聖真子  〃   )
十一面観音(客人   〃   )
地蔵菩薩 (十禅師 〃    )
薬師如来 (二宮  〃    )

が描かれています。
「聖真子」とか「客人」とかいうのが山王二十一社の神の名前です。


画面手前の掛け軸が《日吉山王本地仏曼荼羅》鎌倉時代 14世紀 滋賀・百済寺蔵

実際に滋賀県の日吉大社を訪れると、それぞれの社殿があって拝むことができます(山上にあったりして全部まわるのは大変ですが麓に遥拝所があったりする)

こうして神社の神々に、いちいち仏を結びつけて信仰したのが神仏習合時代のスタイルになります。

なぜこうしたのか、いろんな理由はあるのでしょうけど、ひとつには、「ヴィジュアル化しやすかった」というのがあるんじゃないでしょうか。

本来、神というのは直接目に見えない存在であるのが基本。
だから、巨石とか巨木とか滝とか、そういう自然物に神を降りるとされ、それを拝んだ。

だけど、仏と結びつけば、仏を描いて「これは●●神のお姿なのだ」とすれば、絵画や彫刻で表現できるようになる。
やっぱり、便利ですよね。

キーヴィジュアルを人に見せてインパクトを与える。布教活動のアイテムとして都合がよかったことでしょう。

こちらの写真の、左の掛け軸も日吉山王権現曼荼羅のひとつですが、絵の下部にある階段で、お猿さんがお供え物を供えている様子が描かれています。猿は日吉大社の使いです(稲荷神社での狐みたいなもの)。
とてもかわいらしいので、ここもぜひお見逃しなくご覧ください。


左の掛け軸を現場で見かけたら、画面下部にお猿さんを探してください。この写真では見えないと思うので、現場でご確認ください

そんなこんなで、天台宗は日枝山王信仰と一緒に全国に広がり発展していきました。

江戸にも日枝大社が建設され、江戸の守護神になり、徳川将軍公認の「山王祭」が盛大に行われました。

わたしがやっている小唄でも「日吉さん」「山王の祭」といった作品が残っていて、江戸庶民にも日吉山王信仰が根付いていたことがわかります。
先日の演奏会で唄いました。


それでは聴いてください。
ゴダイゴで「モンキー・マジック」




■過去記事

「最澄と天台宗のすべて」まるで恐怖の魔王?元三大師
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20211019-2/

ついに開幕。特別展「最澄と天台宗のすべて」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20211012-2/

日吉大社の紅葉はすごかった-びわ湖・大津の旅-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20171223-2/



特別展「最澄と天台宗のすべて」
2021年10月12日(火)~11月21日(日)月曜休館
東京国立博物館 平成館
詳細は公式サイトへ:
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/saicho2021-2022/
以降、九州国立博物館、京都国立博物館に巡回




(おしらせ)本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
11/5金18:30
於:赤坂ビーフラット
〈山田参助とG.C.R.管絃楽団の夕べ〉
https://news.yahoo.co.jp/articles/b9049f7b870f3e060926b6ec0f7248a5fa964734
昭和初期トラッドジャズの再現演奏です。宮澤は三味線とギターで参加


2.
新作MV公開「寄木造」宮澤やすみアンド・ザ・ブッツ


宮澤やすみYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/


3.
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
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宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
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