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第306回 満腹の国宝フルコース 特別展「東京国立博物館のすべて」

”寿司屋でいきなり中トロいっちゃう感じといってもいいでしょう--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。私の一門の発表会を兼ねた演奏会を控え、緊張感が高まっている宮澤やすみです。
他人様にやってもらう演奏は、自分でやる時より緊張するものです。

そんな中ですが、東京国立博物館は創立150周年を迎えました。それを記念した特別展「東京国立博物館のすべて」が始まります。
報道内覧会に行ってきました。


仏像ファンにはよく知られた《孔雀明王像》(平安時代、12世紀)ほか、国宝の仏画がずらり

展示室を入ると、いきなり「松林図屏風」がお出迎え。
最初からアクセル全開という感じがいいですね。
いきなりサビから始まるYOASOBIの歌みたいな出だしです。
もしくは、寿司屋でいきなり中トロいっちゃう感じといってもいいでしょう。でも水墨画のタッチに合わせるなら高級白身のほうが合ってるでしょうか(そんなことはどうでもいい)。

そんな「いきなり中トロ」で喜んでいると、このあとノドグロ、アナゴ一本、ウニ…と次々出てくるので気を付けてください。


農耕の様子が描かれた銅鐸と埴輪。考古展示コーナーで人気を二分する

大物てんこもりの贅沢メニューをいただくと、定番の小肌だとか、わざわざ頼むことがなかった蛸とか煮ハマグリとか、オツなメニューがおいしく感じたりするものです。

今回わたくしが興味を引いたのは、書跡コーナーにあった《賢愚経残巻(大聖武)》です。奈良時代、聖武天皇の書と伝わるものです。

画像は掲載できないのですが、公式サイトに画像があります(22番です)


こちらは《金剛力士立像》(平安時代 12世紀)。令和の新所蔵品。像高270センチは圧巻

その筆跡は太く力強くて、でも真っ直ぐというよりはうねるようでもあり、一字一字に強い念が込められているようです。
このストロングスタイルの筆跡から、聖武天皇の筆と伝わっています。
しかも、もともとは東大寺の戒壇院にあったといいますから、仏像ファンならあの渋い四天王の顔を思いながら想像が広がることでしょう。


東大寺法華堂・執金剛神の模造、生人形、キリン剥製が並ぶ光景は一見シュールな展示。これらは明治期「帝室博物館」の時代を物語る展示品

なんといっても、聖武天皇ですからね。
仏像ファンにはおなじみというか、国分寺に大仏造立などなど仏教美術の発展を推し進めた最重要人物であります。

ごはん屋さんで有名人のサイン色紙を見かけることがありますが、
あ、この店に石ちゃん来てたんだな、彦摩呂も来てんじゃん。
と、直筆の字を見るだけで、彼らがテレビの世界だけでなく我々と同じ実世界で歩いて食べて生活しているのだということを、実感します。
今回の聖武天皇の書も、そんな「石ちゃん本当にいるんだな」感をもっともっと壮大にしたスケールで感じられて、心は1300年前の奈良に飛び、あの天皇が実際に息をして、仕事して暮らしていたんだなという実感を得られたのでした。
(ただ、実際は聖武天皇より少し後の奈良時代後期の書と推定されるそうですがね)

仏像ファンのなかには「書類(書跡)系はすっとばしてブツ展示へGO」という人もいらっしゃるかと思いますが、ちょっと立ち止まって、文字を書いた人の息づかいを想像するのも楽しいと思いますよ。

会期を通して展示替えがあり、ぜんぶ通えば東博所蔵の国宝89点すべてを見ることができる、というのも話題の一つです。
ただ、この連載をわざわざ読むような人はたぶん世間一般と異なる価値観をもった変わり者でしょう。
そういう人にとって国宝であることがどれほど価値をもつのかわかりません。でも、


《埴輪 挂甲の武人》(古墳時代 6世紀)。東博が持つ国宝をすべて出す東博そのものを味わう展示。他所様に頼らず、自分の中にある個性で勝負するという姿勢には好感が持てます


グッズ売り場は思い切りよくキャラクタービジネスに振り切っています。仏像展では許諾で苦労されてるでしょうから、ここはぜひ思い切って

今回の展示は、興味がなかったジャンルへの扉を開けてくれるよい機会だと思います。
刀剣ファンが土偶に心酔したり、仏像ファンが茶碗の奥深さに気づいたり、
理解までは及ばなくても、気になるとっかかりが得られるかもしれない。
今までなかった新たな出会いがあるのが楽しいです。

もうね、多様性の時代だから、ひとつのジャンルだけで満足してたらもったいない。

音楽でいえば、ワンマンライブじゃなくてフェスに来たと思って、推し以外のアーティストにも声援を送ってあげてください。

それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「欣喜雀躍」(欽明天皇の仏教公伝から着想を得た一曲です)。


(参考)
特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」
2022年10月18日(火)~12月11日(日)
月曜休館
東京国立博物館 平成館
詳細
https://tohaku150th.jp


---おしらせ---

本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.
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雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです


2.
宮澤やすみ一門・小唄演奏会
「小唄 in 神楽坂」
本業の小唄、年に一度の演奏会。今年で19年。
10/22(土)15時 
神楽坂・善国寺「毘沙門天」にて
https://machitobi.org/2022/227/



宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m