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第307回 ぼくらの心のTaroイズム「展覧会 岡本太郎」。仏像ファンなら彫刻も
”親戚の面白いおじちゃんに会えたような気持に--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。私の一門の発表会を兼ねた「小唄 in 神楽坂」を満場で終えました。ご来場誠にありがとうございました。
そんな中、先日は東京国立博物館の「東京国立博物館のすべて」の取材をし、前回お伝えしました。
そして、同じ日に東京都美術館で始まったのが「岡本太郎展」。こちらも同じ日に取材ハシゴしてきました。
入口すぐの展示室は、順路にこだわらず自由に見ることができる
展示室1は広い空間に絵画、彫刻がランダムに並んでいます。
順路はナシ。
自分の思うままに、自分の感覚で展示空間を回遊します。さすが岡本太郎展だけあって、既成のやり方にとらわれないやり方がいいですね。
今回は彫刻作品も豊富で楽しめる。筆者のお気に入りはこの「Non」。万博のコンセプト”調和”にノンを突き付けたものだが、その手つきがカワイイ
日ごろから順路を気にせず行ったり来たりしたい私みたいな人にはありがたい。
とはいえ、イヤホンガイドを聞きながら行くと、若いころの作品から順番にたどれますけどね。
イヤホンガイドでは、俳優の阿部サダヲさんが岡本太郎の名言を紹介してくれます。ちょっとモノマネ入ってます。
仏像ファンはどうしても彫刻に目がいってしまうもので、奇怪で楽しい彫刻作品がたくさんありました。
2階に上がってから「第1章」が始まり、若かりし岡本太郎の戦前期パリ時代の貴重な作品が見られます。
時代はちょうど前衛絵画が主流で、シュル・レアリスムの作家と交流があったものの、自分だけの道を模索していたそうです。
展示室を進むにつれて、岡本太郎の絵画以外の仕事、彫刻やメディアの仕事(特撮映画の怪獣デザインも)も注目。
手前のオブジェは《縄文人》。奥の赤い手は《手の椅子》
有名な「座ることを拒否する椅子」に座ることもできます。思ったより座りやすかったです。
「座ることを拒否する椅子」には座れるが、座れるデザインの椅子(画面奥)に座ることは禁止だというパラドックスを味わえる
展示第3章「人間の根源 呪力の魅惑」では、神仏ファンにもなじみ深い、岡本太郎の民俗学への探求の軌跡が、彼自身撮影の写真と共に紹介されています。縄文土器、各地の習俗、祭りの映像にワクワクしてください。
仏像・石仏ファンに人気が高い「万治の石仏」も太郎は取材している(画面右の写真)
展示後半は、あまりにも有名な「太陽の塔」と渋谷駅にある巨大壁画「明日の神話」が向かい合う。
《太陽の塔》、その内部にある《生命の樹》、渋谷駅の壁画で有名な《明日の神話》が並ぶ。巨大作品の前に造る模型や下絵こそ作家の意思が強く出る
「明日の神話」の3分の1スケール下絵に引き込まれました。
下絵と言っても完璧な絵画作品です。渋谷駅にあるものより横長で、描かれるモチーフはほとんど同じ。
この大きさだと作品全体がまるごと視界に飛び込み、作品のメッセージがより伝わるような気がします。
下絵とはいえかなり大きい
これは渋谷駅設置の壁画。モチーフ、構図はほぼ同じ
私事ですが、幼少期は大阪の万博公園近くに住んで「太陽の塔」に親しみ、現在はほぼ毎日渋谷の「明日の神話」を目にしている私にとって、岡本太郎は子供のころから刷り込まれたアートの師匠でもあります。
自分の音楽や著作やアート作品がどこかへそまがりな物になるのは、岡本師匠の影響があるのかもしれません。
渋谷駅にて。駅利用者が毎回見ている光景
岡本太郎は自身の思想を「対極主義」と名付けていて、ものごとの”対立や矛盾を、調和させるのではなくむしろ強調し、その不協和音の中から新たな創造を生み出す、という考え方”(図録より引用)が作品の根底にあります。
「芸術は、爆発だ!」のCMキャッチコピーが有名ですが、そんなふうに、物事の対極をぶつけて、爆発させて、崩壊を恐れずに前進する姿勢こそクリエイターの鏡であります。
短刀を隠し持つ少女と、樹木が鬼の顔に見えるのがジワジワくる《夜》。のちに横尾忠則がオマージュした
岡本太郎は、自分の絵画は手元に置き販売しなかったとのこと。
そのかわり、パブリックアートは積極的に携わりました。それは、貧富関係なく一般大衆だれもが目にすることができるからだそうです。
だから、私たちは日々の暮らしの中で、無意識のうちに岡本太郎作品を目にし、太郎イズムがじわじわと自分の身体に沁み込んでいって、誰でもこころの片隅に岡本太郎がいる、そんな状況になっているのではないでしょうか。
強烈な作風と一線を画す、静かなイメージの《愛》。こういう作品もたまには作る
そんなことだから、どんなに奇抜で強烈な作品を見ても、そうそうどれもこれも岡本太郎だねえ、と一種の安心感があり、
親戚の面白いおじちゃんに会えたような気持になるのでした。
(私事ですが、幼少期には万博公園の帰り、千里ニュータウンの親戚の家に遊びにいって、コカ・コーラを飲むのが楽しみでした)
パートナー岡本敏子さんの尽力もありますが、岡本太郎は芸術的才能だけでなく、自分の売り方やプロデュースにも長けていたのかもしれないですね。
それでは聴いてください。
ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンで「Chowder」(ライブ at 東京リキッドルーム)。
(参考)
「展覧会 岡本太郎」
2022年10月18日(火)~12月28日(水)
月曜休館
東京都美術館
詳細
https://taro2022.jp/
---おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
古代史を歌った新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
2.
宮澤やすみ一門・小唄演奏会
「小唄 in 神楽坂」
本業の小唄、年に一度の演奏会。今年で19年。
10/22(土)15時
神楽坂・善国寺「毘沙門天」にて
https://machitobi.org/2022/227/
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。私の一門の発表会を兼ねた「小唄 in 神楽坂」を満場で終えました。ご来場誠にありがとうございました。
そんな中、先日は東京国立博物館の「東京国立博物館のすべて」の取材をし、前回お伝えしました。
そして、同じ日に東京都美術館で始まったのが「岡本太郎展」。こちらも同じ日に取材ハシゴしてきました。
入口すぐの展示室は、順路にこだわらず自由に見ることができる
展示室1は広い空間に絵画、彫刻がランダムに並んでいます。
順路はナシ。
自分の思うままに、自分の感覚で展示空間を回遊します。さすが岡本太郎展だけあって、既成のやり方にとらわれないやり方がいいですね。
今回は彫刻作品も豊富で楽しめる。筆者のお気に入りはこの「Non」。万博のコンセプト”調和”にノンを突き付けたものだが、その手つきがカワイイ
日ごろから順路を気にせず行ったり来たりしたい私みたいな人にはありがたい。
とはいえ、イヤホンガイドを聞きながら行くと、若いころの作品から順番にたどれますけどね。
イヤホンガイドでは、俳優の阿部サダヲさんが岡本太郎の名言を紹介してくれます。ちょっとモノマネ入ってます。
仏像ファンはどうしても彫刻に目がいってしまうもので、奇怪で楽しい彫刻作品がたくさんありました。
2階に上がってから「第1章」が始まり、若かりし岡本太郎の戦前期パリ時代の貴重な作品が見られます。
時代はちょうど前衛絵画が主流で、シュル・レアリスムの作家と交流があったものの、自分だけの道を模索していたそうです。
展示室を進むにつれて、岡本太郎の絵画以外の仕事、彫刻やメディアの仕事(特撮映画の怪獣デザインも)も注目。
手前のオブジェは《縄文人》。奥の赤い手は《手の椅子》
有名な「座ることを拒否する椅子」に座ることもできます。思ったより座りやすかったです。
「座ることを拒否する椅子」には座れるが、座れるデザインの椅子(画面奥)に座ることは禁止だというパラドックスを味わえる
展示第3章「人間の根源 呪力の魅惑」では、神仏ファンにもなじみ深い、岡本太郎の民俗学への探求の軌跡が、彼自身撮影の写真と共に紹介されています。縄文土器、各地の習俗、祭りの映像にワクワクしてください。
仏像・石仏ファンに人気が高い「万治の石仏」も太郎は取材している(画面右の写真)
展示後半は、あまりにも有名な「太陽の塔」と渋谷駅にある巨大壁画「明日の神話」が向かい合う。
《太陽の塔》、その内部にある《生命の樹》、渋谷駅の壁画で有名な《明日の神話》が並ぶ。巨大作品の前に造る模型や下絵こそ作家の意思が強く出る
「明日の神話」の3分の1スケール下絵に引き込まれました。
下絵と言っても完璧な絵画作品です。渋谷駅にあるものより横長で、描かれるモチーフはほとんど同じ。
この大きさだと作品全体がまるごと視界に飛び込み、作品のメッセージがより伝わるような気がします。
下絵とはいえかなり大きい
これは渋谷駅設置の壁画。モチーフ、構図はほぼ同じ
私事ですが、幼少期は大阪の万博公園近くに住んで「太陽の塔」に親しみ、現在はほぼ毎日渋谷の「明日の神話」を目にしている私にとって、岡本太郎は子供のころから刷り込まれたアートの師匠でもあります。
自分の音楽や著作やアート作品がどこかへそまがりな物になるのは、岡本師匠の影響があるのかもしれません。
渋谷駅にて。駅利用者が毎回見ている光景
岡本太郎は自身の思想を「対極主義」と名付けていて、ものごとの”対立や矛盾を、調和させるのではなくむしろ強調し、その不協和音の中から新たな創造を生み出す、という考え方”(図録より引用)が作品の根底にあります。
「芸術は、爆発だ!」のCMキャッチコピーが有名ですが、そんなふうに、物事の対極をぶつけて、爆発させて、崩壊を恐れずに前進する姿勢こそクリエイターの鏡であります。
短刀を隠し持つ少女と、樹木が鬼の顔に見えるのがジワジワくる《夜》。のちに横尾忠則がオマージュした
岡本太郎は、自分の絵画は手元に置き販売しなかったとのこと。
そのかわり、パブリックアートは積極的に携わりました。それは、貧富関係なく一般大衆だれもが目にすることができるからだそうです。
だから、私たちは日々の暮らしの中で、無意識のうちに岡本太郎作品を目にし、太郎イズムがじわじわと自分の身体に沁み込んでいって、誰でもこころの片隅に岡本太郎がいる、そんな状況になっているのではないでしょうか。
強烈な作風と一線を画す、静かなイメージの《愛》。こういう作品もたまには作る
そんなことだから、どんなに奇抜で強烈な作品を見ても、そうそうどれもこれも岡本太郎だねえ、と一種の安心感があり、
親戚の面白いおじちゃんに会えたような気持になるのでした。
(私事ですが、幼少期には万博公園の帰り、千里ニュータウンの親戚の家に遊びにいって、コカ・コーラを飲むのが楽しみでした)
パートナー岡本敏子さんの尽力もありますが、岡本太郎は芸術的才能だけでなく、自分の売り方やプロデュースにも長けていたのかもしれないですね。
それでは聴いてください。
ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンで「Chowder」(ライブ at 東京リキッドルーム)。
(参考)
「展覧会 岡本太郎」
2022年10月18日(火)~12月28日(水)
月曜休館
東京都美術館
詳細
https://taro2022.jp/
---おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
古代史を歌った新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
2.
宮澤やすみ一門・小唄演奏会
「小唄 in 神楽坂」
本業の小唄、年に一度の演奏会。今年で19年。
10/22(土)15時
神楽坂・善国寺「毘沙門天」にて
https://machitobi.org/2022/227/
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m