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第376回 仏像ファンが見る現代美術「遠距離現在 Universal / Remote」

”仏師の名前が残っていない仏像を見る時の感じに似て--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。切った指の抜糸が済んで、今までどおりの三味線演奏ができるようになった宮澤やすみです。ここの読者は誰もご心配してないと思うけどお騒がせしました。

そんな中、国立新美術館で開幕した「遠距離現在 Universal / Remote」の取材に行ってきました。
写真は報道内覧会で許可を得て撮影したものです。

我々仏像ファンはだいたい古いものに目をひかれるものですが、今回のような現代美術展には足が遠のく人も多くいらっしゃるんじゃないでしょうか。

この連載に書いてきた博物館ネタというと、例えば
「本阿弥光悦の大宇宙」とか、法隆寺の宝物がどうこうとか、特定の人物や団体の名称がそのままタイトルになり、それで人々の注目を集めます。

そこへいくと現代美術展は、もちろん作家さんの名前も出ていますが、本阿弥光悦やルノワールといった誰でもわかるお名前ではない(将来そういう存在になる人がいるかもしれませんが)。


展示風景より。2012年以来のキャッシュデータを全て羅列。エヴァン・ロス《あなたが生まれてから》(2023)

だから、おのずと作家の名声につられることなく、作品自体に意識を集中することができるのです。
(解説文で作家個人の人生経験から作品の背景を知ることはできます)

これは仏像鑑賞にたとえると、運慶以前のような仏師の名前が残っていない仏像を見る時の感じに似てるんじゃないでしょうか。


展示風景より。どこか知れない、でも夢で見たような風景に少し恐怖。木浦奈津子の油彩絵画

僕自身の仏像の好みを言うと、●慶が作ったという由緒ある作もいいんですが、誰が作ったか分からない、割れたりボロボロになったりしているけど1千年大事にされてきたような、無銘の作品が好きです。
作家個人の存在に左右されず、目の前の作品(仏像)に集中できますのでね。


展示風景より。落ちそうで落ちない紙飛行機。周囲に響くサウンドも含めて体感して。井田大介《誰が為に鐘は鳴る》(2021)

そういった意味では、今回のような現代美術展は、仏像展しか行かないという人でも、よい鑑賞体験になるのではないかと思いました。

今回の「遠距離現在 Universal/Remote」展では、コロナ禍を経た世界での、個人と社会の関係性や新たな距離感を再考するのが、全体のテーマとなっています。

美術作品は人間が作るものですから、いつの時代でも社会との関わりから生まれます。
展示作品は、危ういバランスで飛び続ける紙飛行機のギリギリ感、既に死んでいる詩人に一番身近な距離感を求める旅、個人主義と福祉の充実したスウェーデンでの孤独死の生々しい現場など、人と人との距離感を、さまざまな視点から考えさせられます。


展示風景より。孤独死の現場を記録したティナ・エングホフの作品《心当たりあるご親族へ》シリーズ

ただ「わーきれい」とか「インスタで映えるー」というだけの展示ではありません。作品が思考のきっかけを提示する役割を担っています。だからちょっと難しいイメージが付いちゃうんですけどね。

とくに現代美術はコンセプト重視で、なんならもうモノ作りより企画書作りが一番労力かかるんじゃないかと邪推してしまいますが、仏像造りの場合でももちろん無目的に造るわけはなくて、造る理由つまり「発願(ほつがん)」というものがあります。


遠慮がちな日本人観客が、はたしてサークルの中に入るだろうかと余計な心配。展示風景より、企業の販売戦略プレゼンテーションをパロディにして消費社会を風刺した作品。ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トロキロヴィチ《ミッション完了:ベランシージ》(2019)

僕の著書『仏像の光と闇』(水王舎 刊)では、仏像の発願理由に着目して仏像と時代の関連をひもときました。
病気平癒とか故人の弔いとかいう願い、つまり具体的な理由(発願)があって、仏像は造られます。
国家レベルでも、仏像に国家鎮護とか敵の調伏とか大きな目的がありました。

仏像が美術の範疇にすっぽり入るわけでは決してないですが、それでも人間が作る作品は、人間社会(宗教含む)のかかわりの中でできるもの。作品のコンセプトを理解して、自分なりに思考を広げる、そうした点では現代美術も仏像も見方は共通するところがありそうですね。

それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「川のほとりで By The River」。
(古事記のエピソードから着想を得て書かれた一曲です)



遠距離現在 Universal / Remote
国立新美術館 企画展示室1E
2024年3月6日(水)~2024年6月3日(月)
火曜休館
※4月30日(火)は開館

https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/universalremote/index.html


--おしらせ---

本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.
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雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです

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 1.Fantastic Dystopia
 2.一木造
 3.Shami on The Water
 4.川のほとりで
 5.Benzai-Tennyo
 6.Black Etenraku
 7.北斗星
 8.いけるとこまで
 ほか、付録CDにボーナストラック




宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m