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第378回 正面から見据える江戸文化「大吉原展」

”じゃあ吉原って何? となると、意外と語られてこなかった--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。最近ブルガリアのワインにハマっている宮澤やすみです。古代史に密接に絡むワインの歴史を勉強中です。

そんな中、東京芸術大学の大学美術館で開幕した「大吉原展」の取材に行ってきました。
写真は報道内覧会で特別に許可を得て撮影したものです。


桜を植えた三月の吉原は一年で一番華やかな時。二階では芸者衆が三味線をかき鳴らす。喜多川歌麿《吉原の花》寛政5年頃 ワズワース・アテネウム美術館

わたくし、日ごろは三味線音楽「小唄」の師匠としても仕事をしておりまして、
小唄という音楽は、一口にいうと吉原のあれやこれやを煮詰めて濃縮エキスにしたようなものです。

なので、この展覧会は必ず見ておかなければと思いました。


店を覗いて廻るような趣向の展示。BGMには江戸三味線の粋な清掻(すががき:唄が入らない三味線だけの演奏)が心地よく響く。演奏は芸大邦楽家教授・東音味見純氏

まずは、このコンプライアンスがんじがらめの時代に「吉原」を真正面から扱うことは、ものすごく勇気ある決断だったと思います

これまでも、浮世絵の美人画とか、落語の話とか、ご町内の祭りで花魁道中パレードとかで花魁や遊女の世界に触れることはありました。
でも、じゃあ吉原って何? となると、意外と語られてこなかったんですよね。


屏風で仕切っただけの大座敷で客と遊女が寝る。《吉原遊興図屏風》延宝後期~天和年間 奈良県立美術館 左曲より

SNSでは、吉原=売春=人権侵害という図式で大いに炎上していたようで、吉原の負の一面が再認識されました。
いっぽう、花魁がファッションとして女子にあこがれられたりして、遠い文化としてもてはやされるという現象もあります。

「おいらん超エモい」という吉原ファッション化と、「人権侵害」の意見は、
どちらも吉原の一面だけしか見ていないような気がしますし、こうした状況が生まれるのは、これまでちゃんと真正面から議論されてこなかったことも原因の一つではないでしょうか。


喜多川歌麿《青楼十二時 続》より《寅の刻》。"引け過ぎ”深夜四時の閉業時間。馴染みの旦那の羽織を借りて寒さをしのいでいる。つまり朝方まで遊ぶのだ

また、我々のような伝統芸能の人間は、吉原を避けて扱うことは不可能ですし、吉原があってこその伝統芸能です。
我々、吉原の文化を継承してきた人たちも、後ろ暗いところを隠しておいしいとこだけ、というわけにいきませんね。
最近はメジャーリーグの残念なニュースもありましたが、清廉潔白であろうとするほど、闇の部分が色濃くなるのは世の常。フタをしてもいいことはありません。
そんなわけで、今回は吉原を総合的に知る良い機会になりそうです。


喜多川歌麿《青楼十二時 続》より《未の刻》。妓楼の一日を描くシリーズのうち、昼営業ののんびり時間。小唄「桜みよとて」で”間夫は昼ぢゃ”と唄われるが、馴染み客は暇な昼に来いという意味

江戸文化の発展のベースになったのが吉原であることは間違いなく、音楽、踊り、俳諧、文学、絵画、あらゆる文化芸術が育つ土壌でありました。


三味線の名手だった遊女・玉菊が使用したという三味線。江戸時代18世紀のもので、現代の三味線より棹もバチもかなり細い。早稲田大学演劇博物館蔵

何千人いる遊女には格があって、最高格が太夫。
これは遊女の中で、芸能を極めて、人柄もよく、頭の回転がよい者だけが「太夫」という地位になり、武家や豪商といった特別な客も敬意をもって接していたそうです。
そんな太夫も江戸中期、宝暦年間には消滅し、以降は大衆化していきます。そのへんは図録や展示でごらんください。

時代を通して、こうした上位の遊女の事を「花魁=おいらん」と呼ぶそうですが、つまりその下位には何千もの下級遊女がいて悲惨な思いを強いられたそう。
今回の展示では「切見世」と呼ばれた二畳間で客の相手をする浮世絵もありました。


辻村寿三郎の人形が並ぶ吉原の妓楼の立体模型《江戸風俗人形》台東区立下町風俗資料館 蔵 が、かなり本格的で見入ってしまう。もの憂げに手紙を読む遊女の姿も覗ける。一般撮影OK

さて、現代も私の稽古場がある東京・神楽坂を始め、料亭で芸者あげて宴会…という世界は残っていますよね。
これは「芸者」でして、遊女ではありません。

歴史を辿ると、遊女のなかで、芸達者な者が芸専門で宴会を盛り上げる役として専業化したのが芸者です。
だから体は売らないし、年を取っても芸が衰えなければ仕事ができる。

先日は、渋谷・円山町で働く超ベテラン芸者さんと共演させていただく機会がありました。
92歳というレジェンド、小糸姐さんの三味線はそれはもう至極の技でした。


渋谷の花街・円山町のベテラン芸者、小糸さん(写真左)とわたくし(写真左から2番目)。江戸の三味線曲の定番「さわぎ」を演奏

歴史の中で消えた吉原ですが、その文化的エッセンスは令和にも引き継がれています。
小唄の中には、遊女の哀しみを歌った作品もあり、陰の部分も忘れることなく後世に伝えていけたらと思います。

最後に、小唄「鬢のほつれ」の歌詞をどうぞ。
鬢=びん は日本髪の左右のふくらんだ部分のこと。
決めた男以外とも寝なくてはいけない遊女にとって、遊郭は「苦界」とも呼ばれました。

♪鬢のほつれは 枕の科(とが)よ
 それをお前に疑られ
 勤めじゃえ 苦界じゃ 許しゃんせ

それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「寄木造(男女和合版)」。



大吉原展
東京藝術大学大学美術館
2024年3月26日(火)~5月19日(日)
月曜休館(GW開館ありHP参照)
詳細 https://daiyoshiwara2024.jp/


--おしらせ---

本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.
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 2.一木造
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 4.川のほとりで
 5.Benzai-Tennyo
 6.Black Etenraku
 7.北斗星
 8.いけるとこまで
 ほか、付録CDにボーナストラック




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