第7回 仏像を見て、創造性が高まる心理状態とは?
三昧に至る過程で開発される創造性
前回のコラムでは、「仏像を見て、心が安らぐ心理状態とは?」という問いについて考えました。
とくに呼吸、ロウソクの炎、マントラ(呪文)など、何らかの対象に注意を固定して集中するタイプの「集中型瞑想」と、内面の精神機能の性質を洞察することを重視するタイプの「洞察型瞑想」をご紹介しましたが、「集中型瞑想」には、さらに創造性を高める効果があるとも考えられています。
心理学者の恩田彰は、教育心理学の見地から、仏教で「三昧(サマーディ)」と呼ばれる状態に至ると、創造性が高まることを明らかにしています。ここで「三昧」とは、「心を一つの対象に集中して、対象と一つになり散乱しない状態、心が静かに統一されて、安定している状態」と定義されています(1)。それは、偏見や欲望にとらわれることなく、自由闊達に振る舞うことができる状態です。
心と対象が一体となる状態「三昧」に達するには、3つの方法があると恩田は論じています。
第1の方法は、注意集中型瞑想から始めて、ある段階でそれを解放型瞑想に切り替え、解放型瞑想を徹底することによって、三昧に至るというもの。
第2の方法は、注意集中型瞑想を徹底することによって、三昧に至るというもの。
第3の方法は、初めから解放型瞑想を行うことによって三昧に至るというもの。
第1の方法にある「解放型瞑想」とは、特定の心の働きから離れるような瞑想です。しかし、この瞑想ですが、多くの人にとって注意集中型瞑想よりも困難であるため、上記の中では第2の方法が最も容易だと考えられます。
創造性は、三昧に至る過程で開発されることになります。
ここでいう創造性とは、「ある活動の目標を達成したり、または新しい状況の問題を解決するのに適したアイデアを生み出し、あるいは社会的・文化的(または個人的)に新しい、価値あるものをつくり出す能力およびその基礎となっている人格」を意味しています(2)。
独創性と智慧
恩田は、このような意味をもつ創造性と、仏教でいう「智慧」、すなわち「真の事実をあるがままに見て、煩悩への執着から離れて、悟りを完成する働き」は重なると言うのです(3)。
完全な意味での創造性の開発は難しいかもしれませんが、注意集中型瞑想では、創造性を構成する重要な能力である「注意集中力」を鍛えることにつながります。「注意集中力」は観察、理解、記憶などの能力を高めるだけでなく、直観的思考や想像力といった発想の力を開発する性質をもつと考えられるのです(4)。
じっくりと仏像に向き合い、集中型瞑想を行うのと同じ心の状態に達するとき、私たちは、心が安らぐだけでなく、創造性を最大限に高められるようになっているのかもしれません。
脚注
(1) 恩田彰 『仏教の心理と創造性』/恒星社厚生閣(2001年)/73頁
(2) 同書/50頁
(3) 同書/52頁
(4) 同書/52頁
読書案内
恩田彰 『仏教の心理と創造性』/恒星社厚生閣(2001年)
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執筆者: 岡田基生
上智大学大学院哲学研究科・博士前期課程修了。専門は、京都学派の哲学。論文に、「歴史の動きに関する基礎的研究―後期西田哲学を手がかりとして―」(『哲学論集』/上智大学哲学会/2017年)、「新しい知識人のタイプの構成―三木清の人間タイプ論を手がかりに―」(『人間学紀要』/上智人間学会/2018年)などがある。
上智大学大学院哲学研究科・博士前期課程修了。専門は、京都学派の哲学。論文に、「歴史の動きに関する基礎的研究―後期西田哲学を手がかりとして―」(『哲学論集』/上智大学哲学会/2017年)、「新しい知識人のタイプの構成―三木清の人間タイプ論を手がかりに―」(『人間学紀要』/上智人間学会/2018年)などがある。