仏像の適正価格
多くのお客様から『仏像は、よくわからない』という声を聞きます。通常の生活の中で仏像を売っている場面に遭遇することは極めて稀で、仏像コレクターでもない限り、仏像の価格を知っている人は皆無と言っても良いのではないでしょうか。当社としては、そのような状況に危機意識を持ち、お客様が安心してお買い物ができる環境造りの必要性を感じています。そのためには仏像価格の透明性を高め、仏像販売への不信感を取り除くことが必要です。仏像の適正価格を示すことは、仏像を取扱い約50年が経過した当社の社会的責任として取り組んでまいります。 株式会社MORITA 代表取締役 森田 滋
仏像価格の構造
~解りにくいと指摘されることの多い仏像価格の内情を紐解いていく~
中国製と日本製【工房の仕組みが違う】
同一サイズの仏像彫刻品を比較した場合、一般的に中国製よりも日本製のほうが高額になる傾向があります。ご存じの通り人件費の違いが大きな要因ですが、それだけではありません。もう一つ、大きな違いとして「工房の仕組み」が挙げられます。
もともと日本の仏像工房では同一の仏像を量産することは少なく、一体からの受注生産が基本です。資金豊富な有名寺院や一部の富裕層からの直接注文によって成り立つ、いわゆる小売販売という形態で、ほとんどの仏師が一人で切り盛りし、弟子が5人以上いる工房は稀です。
一方、中国の工房が製作する日本向けの仏像は、ほぼ卸売用です。日本の輸入業者は安さと高品質という相反する要求をするので、それに応えて生き残るために技術の向上とコスト削減を余儀なくされ、必然的に機械化生産が進みます。仕上げはあくまで手彫りですから、完成した仏像を見て途中まで機械彫りか、最初から手彫りかを判別することは不可能に近いと言えます。
また、受注の数量も大きく異なります。日本の寺院の数はコンビニの数より多いと言われますが、運営資金に難儀する厳しい経済状況の寺院も多く、そうした寺院からの需要に応えるため中国製仏像が多数納入されています。加えて、日本の仏壇仏具店で販売される仏壇用仏像の多くが中国製で、毎月2000体もの仏壇用仏像を日本へ輸出する中国の仏像工房も実在します。それだけの生産数があれば効率的なコストダウンも可能となり、結果、日本の仏像工房が制作する仏像との大幅な価格差が生じ、一般に流通する仏壇用仏像のほとんどが中国製となるのです。
心のこもった仏像
日本人仏師の中には、中国製の仏像を「心のこもっていない粗悪品」と評する方もいます。しかし日本人仏師が制作する「心のこもった仏像」は高額で、裕福な寺院と一部の富裕層だけに許される高級品であることを認識する必要があります。日本人仏師が制作する仏像は一般家庭で容易に購入できる価格ではありませんから、中国製仏像=心のこもっていない粗悪品と断定するのはやや乱暴です。自動車で例えるなら高級車と普及車のような関係で、そもそも同列で比較するものではないと考えます。
本質的な課題は、一般の方が仏像の品質を見極める知識を持っていないことではないでしょうか。日常生活の中で「仏像」という商品に興味を持つ方は圧倒的に少なく、興味がなければ知識もないのは当然です。一般の方が仏像を購入するのは仏壇購入時がほとんどで、仏像の知識がないから店員に勧められるまま購入するパターンが多く、そのような状況を日本の仏師が歯がゆい思いで見ていて、「中国製の仏像は心のこもっていない粗悪品」という表現になったのではないかと推測します。
高いコストはお客様が負担している
仏師の中には得度(僧籍に入る)し仏道の修行として彫刻される方もいらっしゃいます。しかし、彫刻を生業とするには「販売」という商業活動を避けて通ることはできません。一体一体心を込め、時間をかけて仏像を彫り上げる過程に「コスト」という意識を入れることは、仏師としての崇高な精神性を汚すことになるのかもしれません。しかし、最終的に販売をするならば、その高いコストを負担するのが発注者(お客様)であることを意識しないわけにはいきません。
決して日本人仏師を批判しているのではなく、日本における仏像制作の構造に根本的な問題があるとみているのです。目指すのは、旧態依然とした構造を変え、日本人仏師とともに業界の発展に貢献し、一般の方にも広く日本製の仏像をお届けできることです。中国製と日本製、どちらの仏像も数多く見てきた弊社は、日本人仏師が制作する仏像の魅力と価値をわかりやすく伝えることを使命と感じています。そして一般の方が仏像を購入する時、日本人仏師の手による唯一無二の仏像が選択肢に入るようになることを、切に願っています。
日本の仏像製作の問題点と仏師の環境改善の必要性
仏師になる道は、まず師匠となる仏師の工房で弟子として修行を積むことから始まります。これは就職ではないので給料は同世代のサラリーマンの年収より低い傾向にあり、所帯を持ち子供を大学まで出すとなれば、独立、成功の夢を追うことになります。しかし、独立しても仕事があるとは限らず、本業の傍ら彫刻教室の収入等で生計を立てる仏師も少なくありません。例えば、大工さんの日給は2万円と言われますのでそれに当てはめて仏師の報酬を計算してみます。高さ50cmの仏像製作に30日要すれば、日給だけで60万円。それに材料代や技術料、家賃その他諸経費をのせると仏像の販売価格は100万円ほどになります。しかし連続して彫刻するなど不可能なほど集中力が必要な特殊かつ重労働な仕事ですから1日8時間労働では作業が進みません。時折休憩を挟みつつ、朝7時から夜12時まで仕事場にいるとなれば時給に換算するとそれほど高くなりません。仮に1年間に12体製作し売れた場合、年商1200万円となりますが、諸経費や制作の実情をみると手元に残る現金は半分以下。技術の高い仏師なら大手企業の部長クラスの年収があってしかるべきですが、現実は大変厳しい状況です。
そして販売には営業活動が必須で、広告費をかけなければ新規の受注も取れません。そもそも一点ものの受注が主でコストダウンの余地もなく、販売分野のスキルは全くの素人である仏師が一人の裁量で制作から販売までこなすこと自体無理があります。最近こそSNSを活用し個人プロデュースを積極的に行う仏師もいますが、制作に集中しながらSNSを継続するのは大変なことでしょう。
日本の仏師の研ぎ澄まされた精神性から生まれる仏像は、日本の将来に残すべき至高の技術の一つです。だからこそ私どもは、日本人仏師の仏像の魅力を発信し、販売面に協力して積極的に応援していくことを使命としています。そうすることで1300年以上連綿と受け継がれてきた仏像彫刻の歴史を遺し、類まれなる技術を有する仏師の賃金が改善され後継者が憧れる職業となることを強く願います。
仏像は工芸かアートか
仏像の価格と品質には不透明で曖昧な部分が多く、一般消費者の「仏像の値段は分からない」という声も当然かと思います。現在、著名な日本人仏師の仏像の価格はアート作品の価格の領域にあります。アート作品の場合は仲介する画廊が売れそうな値段を決めるほか、作品の完成度や芸術性、受賞歴など複数の条件によって作品の価格が決まる仕組みですが、そのプロセスに「製作日数」は考慮されません。しかし仏像の価格は日給計算を当てはめることが多く、作家というより職人に近い体系です。しかも、その日給計算は個人差が大きいのです。同じ仏像を製作するのに30日かかる仏師と60日かかる仏師がいた場合、完成度が同じなら製作日数に関係なく同価格とみるのが買い手側の心理ですが、仏師の提示価格は30日かけた作品を50万円、60日かけた作品を100万円とする場合があり、そこに買い手側の心理は全く考慮されません。
仏像の適正価格
芸術作品であれば価格は自由で良いのですが、仏像はお客様の要求によって作るわけですから、芸術作品とするには違和感があります。また仏師に特別な免許はなく、技術の熟練度にかかわらず誰でも名乗ることができます。熟練者か否か、提示価格が妥当か否かの判定を下す第三者が存在せず、お客様側がすべてのリスクを背負って仏像を購入しているのが現状です。1968年に創業して以来、50余年にわたり仏像を取り扱ってきた弊社は、仏像の価格の透明性を高め、不信感を取り除き、仏像の価値を正確に伝える第三者の必要性を強く感じ、その役割を担うことを目指しています。そのためには日本全国の仏師とのネットワークを結び、そして仏師の皆さまにもコスト意識を持った取り組みに積極的に協力してもらう必要があります。弊社では力不足と嘲笑されるかもしれませんが、誰かがやらなければ、いつまでもこの業界に発展はないという危機感があります。ご判断のほどはお客様に委ねますが、これまでとこれからの弊社の取り組みを見守っていただければ幸いです。