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「豆まき」?「豆打ち」? 節分のナゾとみうらじゅん
”みうらじゅんさんがオーバースローで思いっきり豆をぶん投げていたんですが、あれこそ正しき「豆打ち」なのかなと--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは、最近は私の”仏像バンド”こと宮澤やすみ and The Buttzの新作レコーディングに明け暮れている宮澤やすみです。メンバーや参加ミュージシャンのおかげで音楽面で劇的に進化しており自分も完成が楽しみです。
そんな中ですが、先日は節分のイベントで東京・目黒の五百羅漢寺に行ってきました。
この連載でも何度か登場しているお寺で、昨年はThe Buttzのイベントでもお邪魔しました(過去記事参照)。いつもお世話になってます。
今回は、仏像ファンなら誰でもご存知みうらじゅん、いとうせいこうの両氏が豆まきに登場。
ほかにもプロレスラーさん、声優さんなどなど、境内のステージから豆をまき、一般の参拝者が集まり、必死に豆を受ける、華やかな節分の光景が繰り広げられました。
みうらさんといとうさん、いつでもどこでも仲良くやってます
ここで、私は前から素朴な疑問があったのでした。
豆は、邪鬼を打ち払うために使われるもので、それを受け取ったら自分が鬼みたいなことにならないの?
家では鬼に扮したお父さんが、豆で追いやられますし。その豆を受け取って喜ぶとはこれいかに?
みうらじゅんさんも、控室で似たようなことをぼやいてました。
「オレなんか、60の厄年だよ(実際は後厄を過ぎてはいます)。そんなのが豆をまいて、厄が移ったりしないの?」
いとうせいこうさんが、まあまあいいんじゃないのと軽くあしらう感じが、いつもの『見仏記』のゆるい会話そのまんまで、なんともほっこりした控室でした。
でも、僕はそれを隣の席で聞いて、たしかに「ちょっと変だな」と思ったのでした。
オーバースローで勢いよく豆を投げるみうらじゅん氏。まさにこれが「豆打ち」か?
そういえば、神社の人に聞いても、年男のほかに「厄年の厄を祓いたいから豆まき役に申し込んだ」という人がいるそうです。
豆を受け取る側からすれば、その厄をもらってしまうのはイヤですよね。
このご時世ですから、「ヤクハラ=厄ハラスメント」とかいって訴えられてしまうかもしれない。
さっそく、五百羅漢寺ご住職でキン肉マンが大好きな佐山拓郎さんに聞いてみたら、少しわかったことがありました。
その日のご住職は、節分の特別法要のため、きらびやかな衣装に大きな払子(ハタキのようなもの)を持っている。
これを使って、豆をまく人たちの魔を除く法要をするのだそうです。
神社でいう「お祓い」みたいなものらしいです。
それによって、日頃のケガレが払い除かれ、厄も一時的に除かれ、おそらく特別なパワーが得られるのでしょう。
そういう状態になったうえで、ステージに上がって豆をまくのです。
そういうパワーを帯びたとされる人が投げる豆は、福徳のある縁起物であるというわけ。
それなら、たしかに豆をもらいたくなりますね。
あの豆が飛んできても「ヤクハラ」「マメハラ」にはあたりません。
禍々しいものに対して法要や儀式を行うことで、厄を益に転じさせる、つまりマイナスのパワーをプラスに変える、という考え方は古くからあったようです。
よく知られた例では、御霊信仰(災いをもたらす怨霊を祀ることで善神に変える)なんかが最たるもので、日本人の信仰心の奥深くに根付いた考え方だと思います。
さらに調べてみると、興味深いことがわかりました。
節分で、鬼を豆で追い払うことは、正しくは豆を「打つ」というそうです。だから、「豆まき」ではなく「豆打ち」。
これは、邪気を払う追儺(ついな)の儀式から来ているもので、たとえば、私の知り合いの神社に聞いてみると、豆打ちをする前に、弓の弦を鳴らして魔を除く「鳴弦の儀」を行うそうで、古式にのっとった魔除けの儀式の一環で豆打ちをします。
いっぽうで、豆をまく、というのは、農村での豊穣祈願で畑に豆をまく動作をまねて行う「予祝行事」からきているとの説があるそうです(農村行事起源説)。
現代で節分はいわゆる追儺の意味が強いから「豆打ち」でよいはずですが、これを「豆まき」と呼んで、ごちゃごちゃになっているのかもしれません。
ただ、こうした民間行事は、発生の起源が不明で諸説あるし、地域ごとに独特の風習がありますから、くわしい実体はわかりません。鬼とはなんなのかという複雑な話もありますし、あとは民俗学の先生におまかせしたいと思います。
ここで分かったのは、みうらじゅんさんが、オーバースローで思いっきり豆をぶん投げていたんですが、あれこそ正しき「豆打ち」なのかなと思った次第です(ときには優しく下手投げもしてましたよ)。
みうらじゅん、いとうせいこう両氏も私の仏像ソングアルバムを応援!
ちなみに、この日は仏像仲間のみほとけさん(仏ものまねが人気の芸人)、久保沙里菜さん(仏像好きアナウンサー)も集まり、賑やかに節分を過ごすことができました。二人とも仏像ファン業界で大活躍ですよ!
みほとけさん(仏クリエイター、ピン芸人)、久保沙里菜さん(仏像マニアのアナウンサー)
(参考過去記事)
花祭り!目黒のお堂は説法ライブエイド!
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20190423-2/
---おしらせ---
■本コラム筆者・宮澤やすみ出演
2020年2月21日(日)20:00開演(19:00開場)
【宮澤やすみの小唄かふぇ Vol.28】
シックなバーで楽しむ江戸の小唄とおもしろゲスト。
今回はジャズピアノと弾き語りの名手がコラボ。
詳細、予約は↓
http://yasumimiyazawa.com/koutacafe
(出演)
宮澤やすみ(小唄、三味線)
岡田啓佑(a.k.a. センチメンタル岡田:ピアノ、ラップ、歌)
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは、最近は私の”仏像バンド”こと宮澤やすみ and The Buttzの新作レコーディングに明け暮れている宮澤やすみです。メンバーや参加ミュージシャンのおかげで音楽面で劇的に進化しており自分も完成が楽しみです。
そんな中ですが、先日は節分のイベントで東京・目黒の五百羅漢寺に行ってきました。
この連載でも何度か登場しているお寺で、昨年はThe Buttzのイベントでもお邪魔しました(過去記事参照)。いつもお世話になってます。
今回は、仏像ファンなら誰でもご存知みうらじゅん、いとうせいこうの両氏が豆まきに登場。
ほかにもプロレスラーさん、声優さんなどなど、境内のステージから豆をまき、一般の参拝者が集まり、必死に豆を受ける、華やかな節分の光景が繰り広げられました。
みうらさんといとうさん、いつでもどこでも仲良くやってます
ここで、私は前から素朴な疑問があったのでした。
豆は、邪鬼を打ち払うために使われるもので、それを受け取ったら自分が鬼みたいなことにならないの?
家では鬼に扮したお父さんが、豆で追いやられますし。その豆を受け取って喜ぶとはこれいかに?
みうらじゅんさんも、控室で似たようなことをぼやいてました。
「オレなんか、60の厄年だよ(実際は後厄を過ぎてはいます)。そんなのが豆をまいて、厄が移ったりしないの?」
いとうせいこうさんが、まあまあいいんじゃないのと軽くあしらう感じが、いつもの『見仏記』のゆるい会話そのまんまで、なんともほっこりした控室でした。
でも、僕はそれを隣の席で聞いて、たしかに「ちょっと変だな」と思ったのでした。
オーバースローで勢いよく豆を投げるみうらじゅん氏。まさにこれが「豆打ち」か?
そういえば、神社の人に聞いても、年男のほかに「厄年の厄を祓いたいから豆まき役に申し込んだ」という人がいるそうです。
豆を受け取る側からすれば、その厄をもらってしまうのはイヤですよね。
このご時世ですから、「ヤクハラ=厄ハラスメント」とかいって訴えられてしまうかもしれない。
さっそく、五百羅漢寺ご住職でキン肉マンが大好きな佐山拓郎さんに聞いてみたら、少しわかったことがありました。
その日のご住職は、節分の特別法要のため、きらびやかな衣装に大きな払子(ハタキのようなもの)を持っている。
これを使って、豆をまく人たちの魔を除く法要をするのだそうです。
神社でいう「お祓い」みたいなものらしいです。
それによって、日頃のケガレが払い除かれ、厄も一時的に除かれ、おそらく特別なパワーが得られるのでしょう。
そういう状態になったうえで、ステージに上がって豆をまくのです。
そういうパワーを帯びたとされる人が投げる豆は、福徳のある縁起物であるというわけ。
それなら、たしかに豆をもらいたくなりますね。
あの豆が飛んできても「ヤクハラ」「マメハラ」にはあたりません。
禍々しいものに対して法要や儀式を行うことで、厄を益に転じさせる、つまりマイナスのパワーをプラスに変える、という考え方は古くからあったようです。
よく知られた例では、御霊信仰(災いをもたらす怨霊を祀ることで善神に変える)なんかが最たるもので、日本人の信仰心の奥深くに根付いた考え方だと思います。
さらに調べてみると、興味深いことがわかりました。
節分で、鬼を豆で追い払うことは、正しくは豆を「打つ」というそうです。だから、「豆まき」ではなく「豆打ち」。
これは、邪気を払う追儺(ついな)の儀式から来ているもので、たとえば、私の知り合いの神社に聞いてみると、豆打ちをする前に、弓の弦を鳴らして魔を除く「鳴弦の儀」を行うそうで、古式にのっとった魔除けの儀式の一環で豆打ちをします。
いっぽうで、豆をまく、というのは、農村での豊穣祈願で畑に豆をまく動作をまねて行う「予祝行事」からきているとの説があるそうです(農村行事起源説)。
現代で節分はいわゆる追儺の意味が強いから「豆打ち」でよいはずですが、これを「豆まき」と呼んで、ごちゃごちゃになっているのかもしれません。
ただ、こうした民間行事は、発生の起源が不明で諸説あるし、地域ごとに独特の風習がありますから、くわしい実体はわかりません。鬼とはなんなのかという複雑な話もありますし、あとは民俗学の先生におまかせしたいと思います。
ここで分かったのは、みうらじゅんさんが、オーバースローで思いっきり豆をぶん投げていたんですが、あれこそ正しき「豆打ち」なのかなと思った次第です(ときには優しく下手投げもしてましたよ)。
みうらじゅん、いとうせいこう両氏も私の仏像ソングアルバムを応援!
ちなみに、この日は仏像仲間のみほとけさん(仏ものまねが人気の芸人)、久保沙里菜さん(仏像好きアナウンサー)も集まり、賑やかに節分を過ごすことができました。二人とも仏像ファン業界で大活躍ですよ!
みほとけさん(仏クリエイター、ピン芸人)、久保沙里菜さん(仏像マニアのアナウンサー)
(参考過去記事)
花祭り!目黒のお堂は説法ライブエイド!
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20190423-2/
---おしらせ---
■本コラム筆者・宮澤やすみ出演
2020年2月21日(日)20:00開演(19:00開場)
【宮澤やすみの小唄かふぇ Vol.28】
シックなバーで楽しむ江戸の小唄とおもしろゲスト。
今回はジャズピアノと弾き語りの名手がコラボ。
詳細、予約は↓
http://yasumimiyazawa.com/koutacafe
(出演)
宮澤やすみ(小唄、三味線)
岡田啓佑(a.k.a. センチメンタル岡田:ピアノ、ラップ、歌)