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飛鳥美術の気品「法隆寺金堂壁画と百済観音」

”しかし、この仏像は百済との関係はとくに無いのです。この名称の由来は……?”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。ウイルス禍のおかげで、自宅作業が順調に進んでおります。リリース間近の新アルバムには百済観音のイメージソングを入れてます宮澤やすみです。前回も書きましたが、出たらみなさん、助けると思ってぜひとも買ってください。

そんな中、東京国立博物館では特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」の報道内覧会が開かれ、取材にいってきました。
以下の写真は特別に許可を得て撮影したものです。
この記事末尾に百済観音展示を撮影した動画もあります。



高貴な美しさの百済観音

特別5室に入ると、そこは法隆寺金堂の世界。周囲をぐるりと金堂壁画の模写が取り囲む中、三体の仏像が並びます。


報道内覧会にて。法隆寺金堂を彷彿させる展示室

手前には吉祥天と毘沙門天。そして真ん中に百済観音!

三体の存在感が圧倒的で、興奮して向き合います。
どれも法隆寺の金堂に安置(または過去に安置)されていた、国家レベルでの最重要仏像です。
それが東京までよくいらっしゃいました。

主役の百済観音は、特殊なガラスケースで、反射がほとんどなくとても見やすい。
「細部がよく見えるように照明も工夫しました」と学芸員さん。その方によると水瓶をもつ左手の手のひらに造立当初の彩色が残っているそうで、絶妙な照明でよく見えるようになっています。

お顔も、法隆寺の宝物館より表情がよく見えます。気品のある優しい表情であることがよくわかりました。
写真やなんかだと表面のボロボロ加減ばかり目について老人のような印象があったのですが、実ブツを近くで見るとちがいました。高貴な女性という感じがします。
小顔でスレンダーな、パリコレでランウェイを歩いてそうな、スーパーモデルです。


ガラスが気にならず、かなり間近で拝める

「法隆寺の像って、どれも品がちがいますね」

というのは、今回取材に同行したフリーアナウンサーの久保沙里菜さん(仏像マニア)。彼女のイチオシは吉祥天。
法隆寺の仏像にしかない上品さ、気品といったものを、感じているようでした。

そして百済観音の圧倒的な存在感。光背を立てる支柱も説明がありました。竹を模した支柱の根本は、山岳風景を模したデザインになっている。
じつに小さなものですが、山がこれだけ小さいということは、観音の大きさがいかにデカいか、ということを意味しているのだそうです。
展示室に説明看板もあるので、見落とさないようにしてください。


百済観音はどこからきたのか

百済観音については、ぼくの講義でもときどき質問をもらいます。
「この仏像は、百済から来たんですか?」
というもの。しかし、この仏像は百済との関係はとくに無いのです。この名称の由来は……?

法隆寺の資材帳にも断片的な情報しか掲載されてなく、詳細が不明の菩薩。
長い間、虚空蔵菩薩という別の尊格として拝まれてきました。

ある時、倉庫から宝冠が発見され、そこに化仏(如来の姿)が彫られていたことから、この像が観音菩薩と判明しました。それがじつに明治44年のこと。

そして、百済観音の名称が使われたのは、大正期に入ってから(大正6年『法隆寺大鏡』)。
さらに大正8年、和辻哲郎が『古寺巡礼』で百済観音の名称で紹介し、それが広まったというのが経緯です。
仏像の歴史のなかでは、かなり最近のことなんですね。

古代の国である百済とは直接関係ないものの、時代的には飛鳥時代後期にさかのぼる古い古い仏像です。

ちなみに、展覧会の図録巻末には、百済観音の制作の経緯を推理する文章があって、これがすごく面白かったです!
それは三田覚之氏による「百済観音像誕生の謎」というもの。


2020年3月24日現在、開幕日は未定。無事開幕を祈ります


百済観音造立の鍵を握るキーパーソン・片岡御祖命(みおやのみこと)という女性の正体は?
聖徳太子の長男、山背大兄王を死に追いやる蘇我入鹿。焼け落ちる法隆寺。血なまぐさい人間ドラマのなかで、鎮魂の美をたたえた百済観音が現れる。その手には聖水の入った水瓶が…。

まるで推理小説を読むような謎解きが楽しい、極上の歴史ミステリーでした。
図録買った人はぜひ読んでみてください。


古代の美術を後世に

世界最古の木造建築として有名な法隆寺。その内部を飾った壁画も、7世紀東アジアの絵画の貴重な現存例として、地球レベルで重要な絵画です。
 
その壁画の模写展示は、本展の主軸である文化財保護を考えさせられます。
明治期~大正期に、人生を賭して模写を成し遂げた桜井香雲、鈴木空如といった先人達。
戦後の焼損まで模写プロジェクトを進めた多くの画家の心血を注いだ画業が並びます。

なぜそこまで模写を必要としたのか? ちょうど現在もウイルスで世界が危機を迎えているなか、文化財保護と、芸術の継承という課題が学べます。

一点だけご紹介すると、飛鳥時代の絵画は「鉄線描」と呼ばれるきっぱりとしてしなやかな輪郭線が特徴です。
図録の解説によると、
「描線に肥痩(ひそう)をつけず、自分の想いを込めることなく、同じ太さで引く」
とあります(有賀祥隆「法隆寺金堂壁画の表現方法について」)。


《第六号壁 阿弥陀浄土図》入江波光ほか模、《第八号壁 文殊菩薩像》吉田義夫ほか模


つまり、感情のない冷徹な線ですが、これがもうこの上なく美しい線なのです。
この、自分語りをしない、無私の境地が古代美術のおもしろいところで、作家個人の想いを超越した先に作品がある。だから仏像も作者の名前を書きつけたりしない(運慶の時代になると変わりますが)。

中世以降は、偉いお坊さんが一筆書けば下手でもなんでも珍重されるし、作った人が重要になっていきます。
現代でも、作品そのものより「バンクシー本人なのか」が重視されるし、音楽でもなんでも「作品に自分の想いを込めませんでした!」と言うのはありえませんよね。古代とはまるっきり価値観がちがいます。

しかしきっと、どんなに有名人気の人が作ったものでも、古代の美術の、余計な自我のない純粋さには到底勝てないでしょう。そのへんが、ぼくが古い仏像に惹かれる所以ではないかと思います。


特別4室には法隆寺金堂釈迦三尊像。銅の成分から本物と同じに作った「クローン文化財」。公開できない本物のかわりに鎮座し、一般撮影も可


特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」
東京国立博物館 本館 特別4室・特別5室
開幕日未定~5月10日(日)
会期については、展覧会公式サイトを参照ください
 → https://horyujikondo2020.jp/

(参考)
【法隆寺の釈迦三尊像が触れるって?】
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20170225-2/
※釈迦三尊像クローン製作を取材



●おしらせ

本コラム筆者・宮澤やすみ出演

”仏像バンド”宮澤やすみ and The Buttz(ブッツ)
新作ミニアルバム発売記念・Youtubeライブ配信
4月11日(土)時間未定(おそらく夕方)

本当はこの日に都内でイベントをやるはずでしたが延期、かわりに生配信で情報と演奏をお届けしたいと準備中です。
宮澤やすみYoutubeチャンネルにて。
  ↓
https://www.youtube.com/channel/UC22_Kz94PSIGdlTMN0HwgZg?view_as=public
今のうちに「チャンネル登録」をクリックして、4/11ご覧ください。


詳細はバンドの公式サイトまたは宮澤やすみツイッターにてお知らせします。
公式サイト:http://yasumimiyazawa.com/buttz/
ツイッター:https://twitter.com/yasumi_m


バンドメンバーMr. tsubaking(左)と筆者・宮澤やすみ。法隆寺釈迦三尊をバックに贅沢なショット


参考動画
百済観音展示のようす(報道内覧会にて)25秒