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第338回 右腕だけでも美しい-興福寺の五部浄と八部衆のひみつ①

”わずか1歳半でなくなった基皇子の--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。先日は「カツベン映画祭」という、サイレント映画の映画祭に出演した宮澤やすみです。昭和6年の時代劇活動写真に、三味線で生演奏を付けました。

音楽の仕事が立て込んであまり遠出はしてないのですが、撮りためた写真があるのでご紹介します。
これ何かわかりますか?


1300年近い時を経て今も美しい右腕

有名な、奈良興福寺の八部衆のうち、五部浄の右腕です。
下の写真のとおり、象をかぶった姿が印象的な五部浄。
興福寺の像は破損が激しく頭部から胸部までしか残っていませんが、右腕が残ってたんですね。

右腕は東京国立博物館に所蔵されていますが、おそらく明治の神仏分離のときに移されたんでしょうか。

興福寺は、廃仏毀釈の標的になって五重塔なども売りに出されたりしたことがよく知られています。
そのときのドサクサ?で仏像も流出したんでしょうか。
そういえば、都内の骨董屋さんでも、興福寺の小さい念持仏を見たことがあります。

そんな興福寺の五部浄の画像は、興福寺Webサイトで見られます。

さて、この五部浄像ほか、興福寺の八部衆は、脱活乾漆(だっかつかんしつ)という技法で造られています。
これは、漆を多用して作る、奈良時代に流行した技法。
まず、木組みで全体のかたちを決めて、麻布を巻いて原型を造ります。
そこに、木くずと漆を混ぜた「木屎漆(こくそうるし)」という、今風に言えば漆のペーストみたいなものを盛り付けて、きれいに形を整えていきます。


陸上最大の動物である象を頭にかぶるのが特徴。

阿修羅も五部浄も、ちょっと憂いのある微妙な表情が有名ですけど、乾漆技法ならではの造形なんですね。
ちなみに、木心乾漆という技法もあって、これは木彫でおおまかに造っちゃって、その上に木屎漆をのっけます。
その後で、一木造の木彫が主流になるという話は、以前この連載で紹介しました(こちら)。

出来たのは奈良時代、聖武天皇のお妃になる光明子が、お母さまの追善供養に造らせたと言われます。
お母様とは、県犬養三千代(あがたのいぬかいのみちよ)。橘三千代ともいい、仏像ファンなら「橘夫人念持仏」といえばピンとくるでしょうか。検索したら出ますんで。

ほかの説で、聖武天皇と光明子の長男として生まれわずか1歳半でなくなった基皇子(もといのみこ)の供養ともいわれます。
だから、阿修羅をはじめ本来は荒々しい顔の八部衆たちが、興福寺像では少年みたいな顔をしているという説。
五部浄の表情も泣くのをこらえる男の子みたいです。


東大寺の法華堂。東大寺の前身とされる金鐘寺は基皇子の菩提を弔うために建てられた

興福寺の八部衆で、五部浄だけが破損が激しく、ごらんのとおり胸部から上とかろうじて右腕が残ってます(ほかの部分もどこかにあるんでしょうか?)。

破損の理由は不明ですが、五部浄という存在を調べると、「ああ五部浄さん大変でしたね」と思うことがあるので、次週つづけますね。

それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「夕焼けの法華堂」。





---おしらせ---

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宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m