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第340回 「古代メキシコ展」でみた生贄と「利他」の関係
”生贄とは持続可能な文明の維持、つまりSDGsの考えに--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。通っている歯医者の若い研修生さんがけなげに実技を学んでいて、その子の初めての神経根幹治療のテスト検体になった宮澤やすみです。いきなり器具まちがえたりしたけど、一人前を目指してがんばるキラキラした眼が美しかったです。
そんな中、トーハクで開幕した特別展「古代メキシコ」の報道内覧会に行ってきました。
展示はほぼすべて撮影OK(動画映像はNG)。そのためか、壁面に巨大ピラミッド写真をあしらって映える写真が撮れます。あとは腕とスマホの性能次第。
SNSで「メキシコ行ってきました」という投稿に使えそう?
古代メキシコというと、マヤ文明を筆頭に、パカル王の宇宙船、クリスタル・スカルのオーパーツなど、なにかとオカルト系の話題にいきがちで、私もそういうのわりと好きなんですけど、今回はどうなんでしょうか?
テオティワカンの「太陽のピラミッド」付近から出土した《死のディスク石彫》
結論からいうと、古いこの地にあった人々のリアルなくらしを実感する展示で、古代メキシコを正面から理解し身近に感じられる展示でした。
宇宙人はでてこなかったです(笑)。
王かそれに次ぐ高位の男性を表す土偶。マヤ文字を駆使し祭祀を司った
それでも、我々仏像ファンの琴線に触れるものがいくつもありました。それは「信仰」です。
農耕に適さない土地で国をまとめた古代メキシコの王たち。そのためには信仰が重要な精神的支柱だったそうです。
マヤ文明でよく知られるパカル王の彫像。リアルな顔と複雑な王冠の造形がおもしろい
乾いた土地で育つトウモロコシがこの地の主食であり、酒の原料であり、さらにトウモロコシ自体を神と崇めます。
動物たちもすべて神として捉え、そのパワーをもらって人々のくらしを豊かにしようと様々な儀式が行われました。
そのためのマスクや人形、儀式で使う豪華な香炉などの展示が目を引きます。
本展の目玉のひとつ「赤の女王」埋葬装身具の展示は神秘的な空間演出
こうした古代メキシコの儀礼で欠かせないのが「生贄」です。
私の世代だと、藤子 F.不二雄の『T.P.ぼん』(タイム・パトロール ぼん)という作品でこういう話題をよく読みました。
「球技に勝ったリーダーは、ごほうびとして首を切られたんだって」
という、衝撃的なセリフを今も覚えています。
《チャクモール像》。手に皿をもち、そこに生贄の心臓を置いた
ただ、今回の展示によると、勝った方ではなくやはり負けたチームが首を切られて生贄にされたとのことなんですけど、
藤子マンガにも出てきた、生贄の心臓を捧げるための台の実物が展示されていてちょっと感動しました。
マヤ文明の地域では都市国家間の戦争がひんぱんにあり、捕虜をたくさん捉えては首を切って生贄として神に捧げていたそうです。
たくさんの生贄の血で、地面は真っ赤に染まり、ピラミッドも血に染まったそうです。
こう書くと、どれだけ野蛮で未開の文明か、背筋の凍る思いがするかもしれません。
しかし、今回の展示を見て、図録を読むと、ちょっと受け止め方が変わるかもしれないです。
ピラミッドの頂上で火を焚く台座の、邪鬼っぽい感じが親しみがもてる
図録の解説にはこう書いてあります。
「人身供犠は、単なる非人道的な宗教儀礼ではなく、根源は人間の特性である利他行動であった」
どうです、「利他行動」ですよ。仏像ファンならおわかりと思いますが、菩薩の行ですよ。
古代メキシコの世界観では、人類も動植物も、太陽も月も、すべて他の犠牲によって生かされているというんですね。
つまり、古代メキシコの考え方では、トウモロコシや動物たちによって人間が生かされていて、食物連鎖の頂点にある人間が、その連鎖の循環を保つために人間の命を自然界に捧げる、そんな「倫理観」のもとに生贄が供されていたというのです。
展示を見た後は無性にメキシコ料理が食べたくなります。肉と野菜をトウモロコシでできたトルティーヤで巻いていただきます。左奥の赤い飲み物はサボテンから作った甘いドリンク。帰りに寄った渋谷のお店にて
なるほど、古代メキシコの人たちにとって、生贄とは持続可能な文明の維持、つまりSDGsの考えにのっとったものなのでした。
そう言われると、とても良い事のようにも見えます(いや首切ってるけど)。
文明の繁栄のために、人類が人類を殺すのは、理にかなった行為なんでしょうか?
現代の社会も、人権はあるとはいえ戦争が絶えないし、どうなんでしょうね。
この先の未来「文明の繁栄のため生贄も必要」「マヤ文明に戻れ」みたいなディストピアな世界があったりなんかして……?
とまたまた大きな妄想を広げてしまう、なかなか考えさせられる展示なのでした。
それでは聴いてください。
ピンク・フロイドで「狂気(The Dark Side of the Moon)」。
特別展「古代メキシコ―マヤ、アステカ、テオティワカン」
2023年6月16日(金)~9月3日(日)
東京国立博物館 平成館
詳細:https://mexico2023.exhibit.jp/
(過去記事)
神仏ファンにおすすめ「古代エジプト展」
(エジプトも動物と星を神格化していました)
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20201201-2/
---おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ登壇
「教員紹介」で割引!
早稲田大学オープンカレッジ
「神社の仏像」
7/15(土)から毎土曜全3回
早稲田大学エクステンションセンター中野校にて
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/60453/
↑
新規入会申込時に「教員紹介」を選択して申し込めば、割引になります。
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。通っている歯医者の若い研修生さんがけなげに実技を学んでいて、その子の初めての神経根幹治療のテスト検体になった宮澤やすみです。いきなり器具まちがえたりしたけど、一人前を目指してがんばるキラキラした眼が美しかったです。
そんな中、トーハクで開幕した特別展「古代メキシコ」の報道内覧会に行ってきました。
展示はほぼすべて撮影OK(動画映像はNG)。そのためか、壁面に巨大ピラミッド写真をあしらって映える写真が撮れます。あとは腕とスマホの性能次第。
SNSで「メキシコ行ってきました」という投稿に使えそう?
古代メキシコというと、マヤ文明を筆頭に、パカル王の宇宙船、クリスタル・スカルのオーパーツなど、なにかとオカルト系の話題にいきがちで、私もそういうのわりと好きなんですけど、今回はどうなんでしょうか?
テオティワカンの「太陽のピラミッド」付近から出土した《死のディスク石彫》
結論からいうと、古いこの地にあった人々のリアルなくらしを実感する展示で、古代メキシコを正面から理解し身近に感じられる展示でした。
宇宙人はでてこなかったです(笑)。
王かそれに次ぐ高位の男性を表す土偶。マヤ文字を駆使し祭祀を司った
それでも、我々仏像ファンの琴線に触れるものがいくつもありました。それは「信仰」です。
農耕に適さない土地で国をまとめた古代メキシコの王たち。そのためには信仰が重要な精神的支柱だったそうです。
マヤ文明でよく知られるパカル王の彫像。リアルな顔と複雑な王冠の造形がおもしろい
乾いた土地で育つトウモロコシがこの地の主食であり、酒の原料であり、さらにトウモロコシ自体を神と崇めます。
動物たちもすべて神として捉え、そのパワーをもらって人々のくらしを豊かにしようと様々な儀式が行われました。
そのためのマスクや人形、儀式で使う豪華な香炉などの展示が目を引きます。
本展の目玉のひとつ「赤の女王」埋葬装身具の展示は神秘的な空間演出
こうした古代メキシコの儀礼で欠かせないのが「生贄」です。
私の世代だと、藤子 F.不二雄の『T.P.ぼん』(タイム・パトロール ぼん)という作品でこういう話題をよく読みました。
「球技に勝ったリーダーは、ごほうびとして首を切られたんだって」
という、衝撃的なセリフを今も覚えています。
《チャクモール像》。手に皿をもち、そこに生贄の心臓を置いた
ただ、今回の展示によると、勝った方ではなくやはり負けたチームが首を切られて生贄にされたとのことなんですけど、
藤子マンガにも出てきた、生贄の心臓を捧げるための台の実物が展示されていてちょっと感動しました。
マヤ文明の地域では都市国家間の戦争がひんぱんにあり、捕虜をたくさん捉えては首を切って生贄として神に捧げていたそうです。
たくさんの生贄の血で、地面は真っ赤に染まり、ピラミッドも血に染まったそうです。
こう書くと、どれだけ野蛮で未開の文明か、背筋の凍る思いがするかもしれません。
しかし、今回の展示を見て、図録を読むと、ちょっと受け止め方が変わるかもしれないです。
ピラミッドの頂上で火を焚く台座の、邪鬼っぽい感じが親しみがもてる
図録の解説にはこう書いてあります。
「人身供犠は、単なる非人道的な宗教儀礼ではなく、根源は人間の特性である利他行動であった」
どうです、「利他行動」ですよ。仏像ファンならおわかりと思いますが、菩薩の行ですよ。
古代メキシコの世界観では、人類も動植物も、太陽も月も、すべて他の犠牲によって生かされているというんですね。
つまり、古代メキシコの考え方では、トウモロコシや動物たちによって人間が生かされていて、食物連鎖の頂点にある人間が、その連鎖の循環を保つために人間の命を自然界に捧げる、そんな「倫理観」のもとに生贄が供されていたというのです。
展示を見た後は無性にメキシコ料理が食べたくなります。肉と野菜をトウモロコシでできたトルティーヤで巻いていただきます。左奥の赤い飲み物はサボテンから作った甘いドリンク。帰りに寄った渋谷のお店にて
なるほど、古代メキシコの人たちにとって、生贄とは持続可能な文明の維持、つまりSDGsの考えにのっとったものなのでした。
そう言われると、とても良い事のようにも見えます(いや首切ってるけど)。
文明の繁栄のために、人類が人類を殺すのは、理にかなった行為なんでしょうか?
現代の社会も、人権はあるとはいえ戦争が絶えないし、どうなんでしょうね。
この先の未来「文明の繁栄のため生贄も必要」「マヤ文明に戻れ」みたいなディストピアな世界があったりなんかして……?
とまたまた大きな妄想を広げてしまう、なかなか考えさせられる展示なのでした。
それでは聴いてください。
ピンク・フロイドで「狂気(The Dark Side of the Moon)」。
特別展「古代メキシコ―マヤ、アステカ、テオティワカン」
2023年6月16日(金)~9月3日(日)
東京国立博物館 平成館
詳細:https://mexico2023.exhibit.jp/
(過去記事)
神仏ファンにおすすめ「古代エジプト展」
(エジプトも動物と星を神格化していました)
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20201201-2/
---おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ登壇
「教員紹介」で割引!
早稲田大学オープンカレッジ
「神社の仏像」
7/15(土)から毎土曜全3回
早稲田大学エクステンションセンター中野校にて
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/60453/
↑
新規入会申込時に「教員紹介」を選択して申し込めば、割引になります。
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m