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第380回 やっぱり”不動明王”がローマにいた?「テルマエ展」

”カラカラ帝の勇ましく荒々しいイメージがインドに--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。仲間が続々と海外公演を成功させていて、ちょっとうらやましくなっている宮澤やすみです。こちらは都内で地道にやるとしましょう。

そんな中、東京のパナソニック汐留美術館で開幕した「テルマエ展」を取材してきました。
写真は報道内覧会で許可を得て撮影したものです(一部一般撮影可)。


ローマと江戸が隣り合って、ヴィーナスさんもこれからお風呂に入りそう

古代ローマの浴場文化と日本の銭湯文化と両方見ていく展示です。マンガ『テルマエ・ロマエ』にあやかっての展覧会です。


ヤマザキマリ氏による『テルマエ・ロマエ』の主人公ルシウスがお出迎え

その中で、仏像ファン的に気になる彫像が2つありました。

まずはやはり、カラカラ帝の彫像。古代ローマの皇帝で、温浴施設を作ったことで知られます。


《カラカラ帝胸像》ナポリ国立考古学博物館 212~217年

これ、仏像ファンからするともはや不動明王にしか見えませんよね。

体格がよくていかつい顔、カールした髪も共通しています。
不動明王の場合は巻き巻きの髪をお下げにして左側に垂らします。
カラカラ帝はおさげはしないけど、もみあげとつながって巻き巻きの毛が顎まで続いています。
まったく同じではないものの、顔全体の勇ましさと、頭髪の表現が、どうしても不動明王につながります。


巻き毛ともみあげに注目。こちらからのアングルだと、ちょっとビリージョエル風でもありますが…

先日紹介した「永遠の都 ローマ展」でも別のカラカラ帝像がありました。そっちのほうがワイルドで、目つきなどさらに不動似ではありましたが、いずれにしても同じ顔。
その時、この連載によく登場する仏友、久保沙里菜(仏像大好きアナウンサー)さんにも見せたけど、
「まじで一緒じゃないですか」
と言ってました。


胸下にベルトを締める着こなしに、奈良大安寺の楊柳観音を重ねてしまう。《着衣女性像》前1~後2世紀 個人蔵

不動明王が図像で描かれた古い例が密教の『大日経』だそうですが、これが7世紀の成立。
その源流はインドですが、それでも6世紀に遡る程度。
いっぽう、カラカラ帝彫像はそれより300年くらい前に遡りますからね。

それに、カラカラ帝よりさらに前の起源1世紀ごろ、ローマ帝国はすでに海上交通でインド交易をしていたそうです(『エリュトラー海案内記』)。カラカラ帝の頃には、ローマとインドはつながりがあった。

神話や文化については、さらに数千年も昔からメソポタミアやエジプトの影響が各地に広がったようです。
たとえば狛犬の源流がスフィンクスだとか、阿修羅はゾロアスター教の神とか、阿弥陀如来は古代ペルシャが源流とか言われます(諸説あり)。
まあ、何千年もの人の営みのなかで、影響を受けたり与えたりしてきたと考えるほうが普通ですよね。


アポロは疫病祓いの神、ニンフは泉の守り神。温泉寺の薬師如来のように、浴場には神を祀られた。「アポロとニンフへの奉納浮彫」ナポリ国立考古学博物館 2世紀

そういう古代からの交易のおかげで、軍人皇帝であったカラカラ帝の勇ましく荒々しいイメージがインドになんとなーく伝わっていたんじゃないか…? と、妄想ですけど想像してしまいます。
(ちなみに空海が伝えた初期の不動明王はストレートヘアで、不動明王の頭髪のデザインには変遷があります)

そして、もうひとつ注目した彫像がこちらです。


《ヘラクレス小像》MIHO MUSEUM 前1~後2世紀

獅子をかぶった像と言えば……、
これは仏像ファン目線でいうと、国宝仏像、乾闥婆(けんだっぱ、けんだつば)ですよね。
少年のような表情がカワイイと言われますが、その装いは獅子をかぶり鎧をつけて強そうです。


(参考写真)こちらはイスムの乾闥婆像

香を食す音楽神である乾闥婆と、ギリシャ神話の英雄ヘラクレスに、キャラクターとしての共通点はありませんが、強さを示すメタファとして獅子が用いられるという図像学的な共通点が見られました。

展示の主題は古代ローマと江戸ですが、なぜか密教の成立にも思いを馳せることができました。


それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「No Fear! 施無畏印」。



「テルマエ展」お風呂で繋がる古代ローマと日本
パナソニック汐留美術館
2024年4月6日[土]~6月9日[日]
以降、神戸、山梨、大分巡回
詳細
https://thermae-ten.exhibit.jp/


(関連記事)
”不動明王”がローマにいた?「永遠の都 ローマ展」
(こっちの像のほうがより不動明王っぽい)
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20231003-2/

参考文献
高橋早紀子「不動の頭髪表現の中国的展開」- 愛知学院大学機関リポジトリ
https://agu.repo.nii.ac.jp/records/3603


--おしらせ---

本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

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 ほか、付録CDにボーナストラック




宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m