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第384回 明治の古写真に写る 増上寺の男たち-「法然と極楽浄土」展-
”そこに当時生きて生活していた庶民の姿が入ることで突然生々しいリアリティを感じ--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。ベリーダンスと三味線のコラボに向けて準備している宮澤やすみです。5月12日に東京・蒲田のお店で開催。詳細は公式サイトへ。
そんな中、先日ご紹介した「法然と極楽浄土」展、注目すべき展示がいくつもありました。
写真は報道内覧会で許可を得て撮影したものです。
ここで注目するのは、大きく壁面展示された古い写真です。
明治初期の撮影。焼失前の増上寺伽藍。右が黒本尊堂で左が経蔵。しかし筆者は写り込む人物に注目した
写っているのは、明治初期の増上寺。
徳川家康の念持仏だった”黒本尊”を安置した黒本尊堂もありますが、こんなに立派な建物だったんですね。
焼失前の貴重な古写真に見入ってしまいました。
黒本尊堂。建物は焼失したが、徳川家康が篤く信仰した阿弥陀如来立像、通称「黒本尊」は現在も安国殿に安置されていて、年3回開帳される
なんといっても、この掃除夫の男がじつにかっこいいじゃないですか。
たたずまいが何ともいえずキマッっている。
位の高い人ではないかもしれないけれど、仕事への誇りを感じるのです。こんな人が掃除をしたらさぞかし境内はきれいになったことでしょう。
黒本尊堂の掃除夫。その後ろにも人物がブレた状態で写っている
当時の写真は湿板写真といって、6秒くらいじっとしている必要がある。
背後にいる人はきっとタイミングがずれちゃったんでしょう。二重写しになってます。
そう考えると、掃除夫の男はブレずに写っていて、モデルとして立派に役目を果たしています。
ほかの写真に写るのは、寝ている男、ぼーっとしている坊主など、頼まなくてもじっとしている人たち。
経蔵の石壇に寝そべる男。なぜこの男を入れて撮影したのか?
いや、もしかしたら撮影技師がその辺の人をつかまえて頼んだのかも?
「おーい、ちょっとそこで寝そべってておくれ」
「お、おう。こうかい?」
なんて会話を想像します。
こちらのお坊さんの姿なんか、衒いがない日常の一コマという感じで、とてもいいですね。
これは、たまたま坊さんが「このままお寺にいていいのかなあ」などと物思いにふけっているところをチャンスとばかりに撮った、と信じたい。
将軍秀忠 霊廟唐門の前でたたずむ若いお坊さん
明治初期、まだちょんまげが残っていた時代に、こんなに自然体の写真が撮られていたとは。
この連載では安井仲治の写真芸術を紹介しましたが、あれは昭和初期のこと。今回のはそれより50年くらい遡ります。
おそらくこれらの写真は増上寺の建築を記録するための写真だと思いますが、人物を入れたところがすごい。
これ以上ないくらい絢爛豪華な建築はすごすぎてちょっと現実味がないのですが、そこに当時生きて生活していた庶民の姿が入ることで突然生々しいリアリティを感じます。そのギャップがひとつの写真作品として完成しているように思います。
まだスナップ写真といった概念が無い時代、記録としての用途を越えて人間味がにじみ出る写真が撮られていたことに驚きです。
展示室の壁面に大きく引き伸ばして印刷されているので、じっくり見てほしい
増上寺は、明治政府の神仏分離政策によって紆余曲折します。境内地が召し上げられ、新政府の宗教政策布教の道場(大教院)とされるなどしました。大教院は明治8年(1873)に解散しますが同年に放火により大殿が焼失します。
そんな増上寺苦難の時代にちょうどあたるのがこの古写真。これをみると、いかに増上寺が絢爛豪華な大寺院だったか、その一端が偲ばれます。
これらの写真は東京国立博物館の館蔵品で、出品リストには含まれず単なる壁面のデザインとして印刷掲示されているだけですが、もったいない。
近現代の古写真ファンは多くいるもので、もっと注目されてもいいんじゃないかと思いました。
それでは聴いてください。
セロニアス・モンクで「Monk's Dream」。
特別展「法然と極楽浄土」
東京国立博物館 平成館
2024年4月16日(火)~2024年6月9日(日)
以降、京都、九州へ巡回
詳細
(東京国立博物館)
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2629
(公式HP)
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/honen2024-25/
(過去記事)
仏像も見ごたえあり「法然と極楽浄土」展
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240423-2/
愛ある前衛「安井仲治 僕の大切な写真」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240227-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。ベリーダンスと三味線のコラボに向けて準備している宮澤やすみです。5月12日に東京・蒲田のお店で開催。詳細は公式サイトへ。
そんな中、先日ご紹介した「法然と極楽浄土」展、注目すべき展示がいくつもありました。
写真は報道内覧会で許可を得て撮影したものです。
ここで注目するのは、大きく壁面展示された古い写真です。
明治初期の撮影。焼失前の増上寺伽藍。右が黒本尊堂で左が経蔵。しかし筆者は写り込む人物に注目した
写っているのは、明治初期の増上寺。
徳川家康の念持仏だった”黒本尊”を安置した黒本尊堂もありますが、こんなに立派な建物だったんですね。
焼失前の貴重な古写真に見入ってしまいました。
黒本尊堂。建物は焼失したが、徳川家康が篤く信仰した阿弥陀如来立像、通称「黒本尊」は現在も安国殿に安置されていて、年3回開帳される
なんといっても、この掃除夫の男がじつにかっこいいじゃないですか。
たたずまいが何ともいえずキマッっている。
位の高い人ではないかもしれないけれど、仕事への誇りを感じるのです。こんな人が掃除をしたらさぞかし境内はきれいになったことでしょう。
黒本尊堂の掃除夫。その後ろにも人物がブレた状態で写っている
当時の写真は湿板写真といって、6秒くらいじっとしている必要がある。
背後にいる人はきっとタイミングがずれちゃったんでしょう。二重写しになってます。
そう考えると、掃除夫の男はブレずに写っていて、モデルとして立派に役目を果たしています。
ほかの写真に写るのは、寝ている男、ぼーっとしている坊主など、頼まなくてもじっとしている人たち。
経蔵の石壇に寝そべる男。なぜこの男を入れて撮影したのか?
いや、もしかしたら撮影技師がその辺の人をつかまえて頼んだのかも?
「おーい、ちょっとそこで寝そべってておくれ」
「お、おう。こうかい?」
なんて会話を想像します。
こちらのお坊さんの姿なんか、衒いがない日常の一コマという感じで、とてもいいですね。
これは、たまたま坊さんが「このままお寺にいていいのかなあ」などと物思いにふけっているところをチャンスとばかりに撮った、と信じたい。
将軍秀忠 霊廟唐門の前でたたずむ若いお坊さん
明治初期、まだちょんまげが残っていた時代に、こんなに自然体の写真が撮られていたとは。
この連載では安井仲治の写真芸術を紹介しましたが、あれは昭和初期のこと。今回のはそれより50年くらい遡ります。
おそらくこれらの写真は増上寺の建築を記録するための写真だと思いますが、人物を入れたところがすごい。
これ以上ないくらい絢爛豪華な建築はすごすぎてちょっと現実味がないのですが、そこに当時生きて生活していた庶民の姿が入ることで突然生々しいリアリティを感じます。そのギャップがひとつの写真作品として完成しているように思います。
まだスナップ写真といった概念が無い時代、記録としての用途を越えて人間味がにじみ出る写真が撮られていたことに驚きです。
展示室の壁面に大きく引き伸ばして印刷されているので、じっくり見てほしい
増上寺は、明治政府の神仏分離政策によって紆余曲折します。境内地が召し上げられ、新政府の宗教政策布教の道場(大教院)とされるなどしました。大教院は明治8年(1873)に解散しますが同年に放火により大殿が焼失します。
そんな増上寺苦難の時代にちょうどあたるのがこの古写真。これをみると、いかに増上寺が絢爛豪華な大寺院だったか、その一端が偲ばれます。
これらの写真は東京国立博物館の館蔵品で、出品リストには含まれず単なる壁面のデザインとして印刷掲示されているだけですが、もったいない。
近現代の古写真ファンは多くいるもので、もっと注目されてもいいんじゃないかと思いました。
それでは聴いてください。
セロニアス・モンクで「Monk's Dream」。
特別展「法然と極楽浄土」
東京国立博物館 平成館
2024年4月16日(火)~2024年6月9日(日)
以降、京都、九州へ巡回
詳細
(東京国立博物館)
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2629
(公式HP)
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/honen2024-25/
(過去記事)
仏像も見ごたえあり「法然と極楽浄土」展
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240423-2/
愛ある前衛「安井仲治 僕の大切な写真」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240227-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m