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第383回 ”侘び”と”寂び”何がちがう? 改めて考える”わびさび”「茶の湯の美学」展(読者プレゼントあり)

”過剰に盛り付けた海鮮丼より、厳選した魚の刺身定食がいい--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。GW中に海が近い実家に帰った宮澤やすみです。晴れた日の富士山ビューが人気の海岸ですがぼくが行くといつも海岸は雨模様です。

そんな中、春は美術展がたくさん開幕。東京・三井記念美術館での「茶の湯の美学」を取材してきました。
写真は報道内覧会で許可を得て撮影したものです。


千利休、古田織部、小堀遠州という茶の湯の巨人ゆかりの逸品が集結

この展覧会では、利休を「わびさびの美」として紹介していますが、前からかねがね気になっていたのは「わびさびって何?」ということ。

利休の師匠の師匠にあたる室町時代の茶人・村田珠光(しゅこう)が、金ぴかの華美な茶会を嫌って、農民が使っているふだん使いの器から良いと思うものを入手して茶会に使ったあたりから「侘び茶」というムーブメントが始まったため、村田珠光は「侘び茶の祖」と呼ばれます。


展示風景より。中国からの輸入物”唐物”のうち日常に雑器を侘び茶に使用した村田珠光。水墨画は伝・村田珠光筆の山水画 室町時代 15世紀

「侘び」は「わびしい」という言葉があるように、簡素で物足りない感覚ですが、そこがイイと。
ごはんのおかずが漬物だけだったら”わびしい”けど、その漬物が最高級の逸品だったら最高においしい。

そして、長年使い込まれた器は年季を重ねて古びている、これが「さびれて」いるわけで「寂び」となる。
駅前にボロボロの食堂があるけど、じつはうまいと人気があったりする。あの感じ。


展示風景より。左下は千利休の師匠にあたる武野紹鴎作の茶杓。この頃は竹の節がなくまっすぐに造られる

その後、武野紹鴎(たけのじょうおう)から弟子の千利休に侘びのコンセプトが継承されて、利休も同じように普段使いのものを流用して「これでいいのだ」とやってたんですけど、なにしろ偉くなりましたからね。わざわざ侘びた風味の器を新しく造らせるようになります。
これが「楽茶碗」で、今でこそ何百年も経った貴重な文化財だけど、当時はできたての最新モデルなわけです。


重要文化財 黒楽茶碗 銘俊寛 長次郎作 1口 桃山時代・16世紀三井記念美術館蔵

たとえが乱暴だけど、100年前のヴィンテージデニムの風合いをまねて、初めから傷を付けて売り出す新品のダメージジーンズのようじゃないですか。どうですか。

三井記念美術館の学芸部長である清水実さんに話をうかがいました。
清水さんによると、わびもさびも、どちらも”閑寂な趣”を表す言葉であるものの、
「わび」がより精神的なものを表し、「さび」は物質的なもの、
と教えてくださいました。
(図録の「概論 茶の湯の美学」にも詳しく書かれています)

ボロボロのジーンズを愛でる感覚が「侘び」で、ダメージジーンズが「寂び」ですかね。どうですかね。

こういった話、エライ先生方にもそれぞれのご意見があるでしょうから、ここで明快な答えを導きだせるような簡単な話ではありません。

そんな中で、僕自身の解釈としては、さっきの漬物や駅前食堂の例になぞらえて、
わびは「引き算の美学」さびは「古びた趣き」と言い換えてみたらどうでしょう。


展示風景より。侘びた趣の茶碗や壺が存在感を発揮

ゴテゴテ過剰に盛り付けた海鮮丼より、厳選した魚の刺身定食がいい。
小ぎれいなだけのカフェより、年季の入った喫茶店がいい。

そう考えると、なんだか遠い世界に思えたわびさびの精神が、けっこう僕ら庶民にも浸透している価値観なのかなと思えてきます。

で、大事なところは、そんな侘びた風情を楽しむ心情は、都会だからできることなんですよね。

千利休は、当時の商業大都市であった堺の商人。
騒がしい都会の中に、あえて質素な茶室と道具を用いてお茶を喫する。寂びたしつらえは実はかなりお金がかかっている。それを見抜いて感嘆する客人。
要は、都会のなかにわざわざ自然を感じる田舎スポットを作って、そのコントラストを楽しむ贅沢な遊びなわけです。


展示風景より。侘び茶の静謐な空間が再現されている

そのへんが、ちょっとね、しょせん金持ちの道楽というか、ちょっといけすかない感じがしちゃうところはありますよね(スミマセン)。
豪華な車と贅沢キャンプセットで、わざわざ山奥の不便なくらしを楽しんじゃうキャンパーみたいな、いやスミマセンなんでもないです。


展示風景より。《伊賀耳付花入 銘 業平 16-17世紀 室町三井家蔵》ほか古田織部ゆかりの名品も。展覧会では織部好みの形を「破格の美」として紹介

まあでも、都会のビルの合間にポツンと古い喫茶店があったらうれしいですもんね。
古民家カフェが流行るのもうなづけます。
渋谷の高層ビルの合間に、のんべえ横丁が丁寧に残されて今も人が通うわけです。
だから我々も利休の感覚を受け継いでいるのです。きっと。たぶん。

以前、別の記事で利休のことを「とんだパンク野郎」と書いたことがありますが、こういうあまのじゃくな反骨精神が利休らしいところかもしれないですね。
みんなが金色なら俺は黒、トレンドは自分で創るという態度は、弟子の古田織部に受け継がれてさらにパンキッシュな世界が繰り広げられます。
そのへんは、展示で実物を見て回るとわかりますよ。


それでは聴いてください。
宮澤やすみで「Boy Meets Girl(TRF 三味線カバー)」。




茶の湯の美学―利休・織部・遠州の茶道具―
三井記念美術館
2024年4月18日(木)〜6月16日(日)
詳細
https://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html



(過去記事)
仏像好きならハマる「高麗茶碗」展-その1-
(初心者向けの茶碗の楽しみ方を書いています)
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20190917-2/

仏像好きならハマる「高麗茶碗」展-その2-
(侘び茶のコンセプトについて書いています)
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20190924-2/

書と茶碗に注目「本阿弥光悦の大宇宙」展
(利休の楽茶碗について書いています)
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240123-2/


◆読者プレゼント◆
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宮澤やすみ広報部からご連絡し、郵送します。
無くなり次第終了します。



--おしらせ---

本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

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 5.Benzai-Tennyo
 6.Black Etenraku
 7.北斗星
 8.いけるとこまで
 ほか、付録CDにボーナストラック




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