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第473回 日本美術の「元ネタ」を知る ―在原業平と伊勢物語―

”日本最古のミーム、我々のくらしにも浸透している伊勢物語と和歌の数々――”

音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。小唄の新作アルバムの制作に入った宮澤やすみです。三味線と唄のレコーディングをいたします。

そんな中、春は美術展のシーズン。
今回は東京・三井記念美術館での「歌仙 在原業平と伊勢物語」展の報道内覧会に行ってきました。

在原業平は、平安時代前期の実在の人物で、皇族の身分を離れて在原姓を名乗り、和歌に長けた人でした。


展示の冒頭風景より。在原業平像。背景には「世の中に絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」と書かれている

―才覚無けれど善く和歌を作る-

と、『三代実録』に書かれているそうです。役人としてはぱっとせずとも和歌や風流の世界で活躍したという、貴族はいいですね。
見栄えがよくてモテたらしいです。

そんな在原業平をモデルにして成立したのが『伊勢物語』で、「男」が各地を旅して恋をして…というお話。
長年のうちにさまざまな物語が書き足されて形作られ、後世まで読まれました(図録の解説によると、その原初だけは業平本人が書いたものではないかと推測されています)。


一般撮影OKの展示品より《伊勢物語図貼付屏風》

古くは『古今和歌集』(延喜5年(905)成立)に引用が見え、あの『源氏物語』にも伊勢物語を参考にした文章が見えるそうで、つまり紫式部のころにはすでに『伊勢物語』はポピュラーな存在であったということですね。

その後も、中世から江戸時代まで伊勢物語は日本の文化のベースとしてさまざまな美術で引用されます。

この展示は、伊勢物語や在原業平をモチーフにした美術品を、ジャンルを超えて取り合わせた展示です。
物語や和歌をしたためた書や、業平の旅を描いた屏風、押絵などが展示。それに、業平は出てこないものの伊勢物語を匂わせる凝ったデザイン(留守模様という)で造られた茶器など調度品が並んでいました。


千利休の「わびさびの美」を破った「破格の美」を推し進めた古田織部の好み《伊賀耳付花入 名「業平」》。写真は背後からの撮影で青みがかった正面とは趣が異なる

私みたいな初心者は、伊勢物語といえば「むかし男ありけり」くらいしか知らないのに、展示みてわかるのかなと心配でしたが、大丈夫でした。

展示第1室では「伊勢物語ダイジェスト」として、各巻のあらすじが掲示され、読み進めながら展示品を見るとなるほどと呑み込めます。

そのあらすじを読むと、だいたいどの巻も男が女と出会って、しかもだいたい道ならぬ不倫の恋で、しまいには女を背負って逃避行するもつかまっちゃうとか、わりと破天荒な恋愛話が続きます。
で、だいたい恋はうまくいかなくて、嘆いて和歌を詠むみたいな話。


”私と逃げて遠い国で暮らしませう”男が高貴な女を背負って逃げる場面をモチーフにした《芥川蒔絵螺鈿硯箱》

昔から、タブーを犯す破滅のラブストーリーって好まれるんですね。
込み入った謎解きとか伏線とかややこしいことはないから、心配いらないです。


能でも伊勢物語が重要な題材。在原業平の面と衣装が展示。重要文化財《能面 中将》

文学は、その他のアート制作の元ネタになりやすいもので、私の尊敬する古今東西の音楽家さんたちも読書から作曲のインスピレーションを得ています。

また、古典落語「ちはやぶる」は、百人一首の和歌をいいかげんに解釈するバカ話ですけど、あの和歌も伊勢物語で在原業平が詠んだもの。

-千早振る神代もきかず竜田川からくれないに水くくるとは-

そのおもしろ解釈は、落語を聞いてみてください。


展示風景より「ちはやふる」の和歌の場面が描かれた《合貝(伊勢物語図)》など

そのうち私も、在原業平の和歌で一曲作ろうかと思います。

それにしても、東京隅田川にかかる言問橋や言問通り(その近くに言問団子もあります)、食べ物なら「竜田揚げ」など、伊勢物語の和歌から来た言葉がいろいろあって、我々のくらしにも浸透している伊勢物語と和歌の数々。日本人ならある程度は知っておきたい「元ネタ」であり、日本最古のミームといえるんじゃないでしょうか。


それでは聴いてください。
ボン・ジョヴィで「夜明けのランナウェイ(Runaway)」



特別展 生誕1200年
歌仙 在原業平と伊勢物語
2026年2月21日(土)~4月5日(日)
三井記念美術館
詳細:
https://www.mitsui-museum.jp/exhibition/


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--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.
4/25土
古民家カフェで お江戸なカフェタイム(小唄と三味線と酒とつまみ)
https://kaguramura.jp/event/festival/1933/

2.
4/29水祝(見逃し配信も)
レクチャーコンサート
小唄で感じる江戸東京の文化 | 朝日カルチャーセンター横浜教室
https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=8697980
(オンライン受講可)


3.
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html