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第288回 富士山”下山仏”に会いにいく旅 その4
”富士山頂にいたのだから、仏さまも防寒するのかなと妄想をめぐらせ--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。先日は第二回「カツベン映画祭」新宿武蔵野館に出演いたしました。歌舞伎をベースにした痛快時代劇に生演奏を付けました。活動弁士・坂本頼光さんとの共演でした。
さて連載は、3週前から富士宮を旅しています。
ここには、富士山に祀られていた仏像、通称「富士下山仏」があるのです。
富士山本宮浅間大社、そして富士宮やきそばも堪能、いよいよ「富士下山仏」へ!
(1回目、2回目、3回目をみる)
富士下山仏を拝観できる「高砂酒造」に到着
「富士下山仏」とは、もともと富士山頂の仏堂に安置されていた仏像を、ふもとに移設した、つまり「下山」させたことから言われている通称です。
下山仏は、富士宮の酒造蔵、高砂酒造さんで大事に保管されています。
事前申込で無料見学が可能です。
巨大な仕込みタンクが並ぶ、暗い酒蔵。そのタンクに櫂棒を入れるために、タンクの縁の高さに合わせて作業場が組まれています。
右側にみえるのは酒造用のタンク。富士山の仏は今、酒造り守護仏へ
その最奥部に案内されると、仏像を安置する宮殿(くでん)があって、中に菩薩が5体、如来が3体安置されているのが見えました。
ようやく目の前で拝めた「富士下山仏」
近づいて、一礼してから覗いてみると、どれもやさしいお顔。金銅製で江戸時代の作だそうです。
前列の小さな如来像は、どれも薬壺を両手で大事そうに抱えているため、薬師如来とわかります。
厚手の衣をぜいたくに着込んでいます。
なにしろ富士山頂(もしくは八合目)あたりにいたのだから、仏さまも防寒するのかなと妄想をめぐらせました。
前列に並ぶのは薬師如来立像。手に薬壺をもっている
菩薩たちは身体をひねって斜めにポーズをとっている姿で、このことからご本尊の両脇に立つ脇侍であったものと思われます。
持物も頭上物も失っているので、何菩薩かは判別できません。
菩薩像は、手の位置に注目
ただ、左右二体ずつの菩薩たちは、両腕を上下に構えて何かを持っていたようなので、おそらく薬師如来の脇侍である日光菩薩、月光菩薩なんじゃないかな、と推察しました。下の写真は別のお寺の月光菩薩ですが、手の位置が似ていますよね。
武蔵国分寺の月光菩薩像。長く伸びた蓮の上に月を載せた「月輪(がちりん)」をもつのが月光菩薩のよくあるポーズ
前列が薬師如来なので、きっと関係があるのかもなあと。
大切なことは、富士山に仏像があったという証拠がここに残されているということです。
前々回のコラムで、富士山が信仰の対象であり、山全体に神仏習合の信仰世界が構成されていたことを紹介しました。
平安時代には富士山頂に大日寺が建立され、大日如来を安置。室町時代には大日堂のほかに薬師堂もおかれたといいます。
それが明治の神仏分離令により、神社である浅間大社の境内地に仏像の安置が許されず、排除されることに。
「ウチの二代目当主が、先に仏像をもってここに下ろしたんです」
と、高砂酒造の酒造担当さんが教えてくれました。
全国各地で廃仏運動の嵐が吹き荒れた明治初期。仏像が棄てられる前に、なんとかしようと急ごしらえで仲間を集め、山頂まで行って大急ぎで下ろしたんでしょうか。
少人数の人力で、なんとか小ぶりの像は「下山」させ、廃棄や流出を免れることができました。
富士山頂は、大日如来を中心に、密教の曼荼羅に描かれる八仏がいるとされましたから、本当は大日如来ほかに四如来四菩薩がいたはず。
「薬師蔵」と命名されている酒造蔵
すべての仏像を救うのは無理でしたが、なんとか薬師堂の仏像だけでもこうして令和の今まで残されました。これは高砂酒造当主と富士宮の有志のみなさんのおかげです。
今では、毎年の酒造りを始める前に全員で参拝し作業の安全と酒の出来を祈るそうです。
高砂酒造さんのお酒を飲むと、ご利益ありそうですね。
酒蔵見学-高砂酒造WEBサイト
https://fuji-takasago.com/kengaku
それでは聴いてください。
斉藤由貴で「夢の中へ」。
(過去記事)
富士山”下山仏”に会いにいく旅 その1
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20220517-2/
富士山”下山仏”に会いにいく旅 その2 富士山本宮浅間大社
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20220524-2/
富士山五合目まで車で行ける深い理由と富士講の話
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20190806-2/
明治の神仏分離ってなに?「立山の明治維新」展
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20181009-2/
---おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみソロライブ「ひとりワロス」
2022/7/24(日)15:30開演
上野広小路/御徒町 ワロスロード・カフェ
本職の小唄など三味線音曲をゆるりと。詳細↓
http://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
日本書紀を歌った新作MV「欣喜雀躍」宮澤やすみ アンド・ザ・ブッツ
宮澤やすみYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/
3.
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。先日は第二回「カツベン映画祭」新宿武蔵野館に出演いたしました。歌舞伎をベースにした痛快時代劇に生演奏を付けました。活動弁士・坂本頼光さんとの共演でした。
さて連載は、3週前から富士宮を旅しています。
ここには、富士山に祀られていた仏像、通称「富士下山仏」があるのです。
富士山本宮浅間大社、そして富士宮やきそばも堪能、いよいよ「富士下山仏」へ!
(1回目、2回目、3回目をみる)
富士下山仏を拝観できる「高砂酒造」に到着
「富士下山仏」とは、もともと富士山頂の仏堂に安置されていた仏像を、ふもとに移設した、つまり「下山」させたことから言われている通称です。
下山仏は、富士宮の酒造蔵、高砂酒造さんで大事に保管されています。
事前申込で無料見学が可能です。
巨大な仕込みタンクが並ぶ、暗い酒蔵。そのタンクに櫂棒を入れるために、タンクの縁の高さに合わせて作業場が組まれています。
右側にみえるのは酒造用のタンク。富士山の仏は今、酒造り守護仏へ
その最奥部に案内されると、仏像を安置する宮殿(くでん)があって、中に菩薩が5体、如来が3体安置されているのが見えました。
ようやく目の前で拝めた「富士下山仏」
近づいて、一礼してから覗いてみると、どれもやさしいお顔。金銅製で江戸時代の作だそうです。
前列の小さな如来像は、どれも薬壺を両手で大事そうに抱えているため、薬師如来とわかります。
厚手の衣をぜいたくに着込んでいます。
なにしろ富士山頂(もしくは八合目)あたりにいたのだから、仏さまも防寒するのかなと妄想をめぐらせました。
前列に並ぶのは薬師如来立像。手に薬壺をもっている
菩薩たちは身体をひねって斜めにポーズをとっている姿で、このことからご本尊の両脇に立つ脇侍であったものと思われます。
持物も頭上物も失っているので、何菩薩かは判別できません。
菩薩像は、手の位置に注目
ただ、左右二体ずつの菩薩たちは、両腕を上下に構えて何かを持っていたようなので、おそらく薬師如来の脇侍である日光菩薩、月光菩薩なんじゃないかな、と推察しました。下の写真は別のお寺の月光菩薩ですが、手の位置が似ていますよね。
武蔵国分寺の月光菩薩像。長く伸びた蓮の上に月を載せた「月輪(がちりん)」をもつのが月光菩薩のよくあるポーズ
前列が薬師如来なので、きっと関係があるのかもなあと。
大切なことは、富士山に仏像があったという証拠がここに残されているということです。
前々回のコラムで、富士山が信仰の対象であり、山全体に神仏習合の信仰世界が構成されていたことを紹介しました。
平安時代には富士山頂に大日寺が建立され、大日如来を安置。室町時代には大日堂のほかに薬師堂もおかれたといいます。
それが明治の神仏分離令により、神社である浅間大社の境内地に仏像の安置が許されず、排除されることに。
「ウチの二代目当主が、先に仏像をもってここに下ろしたんです」
と、高砂酒造の酒造担当さんが教えてくれました。
全国各地で廃仏運動の嵐が吹き荒れた明治初期。仏像が棄てられる前に、なんとかしようと急ごしらえで仲間を集め、山頂まで行って大急ぎで下ろしたんでしょうか。
少人数の人力で、なんとか小ぶりの像は「下山」させ、廃棄や流出を免れることができました。
富士山頂は、大日如来を中心に、密教の曼荼羅に描かれる八仏がいるとされましたから、本当は大日如来ほかに四如来四菩薩がいたはず。
「薬師蔵」と命名されている酒造蔵
すべての仏像を救うのは無理でしたが、なんとか薬師堂の仏像だけでもこうして令和の今まで残されました。これは高砂酒造当主と富士宮の有志のみなさんのおかげです。
今では、毎年の酒造りを始める前に全員で参拝し作業の安全と酒の出来を祈るそうです。
高砂酒造さんのお酒を飲むと、ご利益ありそうですね。
酒蔵見学-高砂酒造WEBサイト
https://fuji-takasago.com/kengaku
それでは聴いてください。
斉藤由貴で「夢の中へ」。
(過去記事)
富士山”下山仏”に会いにいく旅 その1
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20220517-2/
富士山”下山仏”に会いにいく旅 その2 富士山本宮浅間大社
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20220524-2/
富士山五合目まで車で行ける深い理由と富士講の話
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20190806-2/
明治の神仏分離ってなに?「立山の明治維新」展
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20181009-2/
---おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみソロライブ「ひとりワロス」
2022/7/24(日)15:30開演
上野広小路/御徒町 ワロスロード・カフェ
本職の小唄など三味線音曲をゆるりと。詳細↓
http://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
日本書紀を歌った新作MV「欣喜雀躍」宮澤やすみ アンド・ザ・ブッツ
宮澤やすみYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/
3.
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m