facebook twitter instagram youtube
メニュー お問い合わせ

第289回 富士山”下山仏”に会いにいく旅 その5 仏像のある酒蔵

”蔵人は仏像を横目にしながら酒造りをする--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。ひさしぶりに近所の区民プールで泳いで筋肉痛の宮澤やすみです。

さて連載は、富士宮を旅シリーズの5週目、最終回になります。
ここには、富士山に祀られていた仏像、通称「富士下山仏」があるのです。
世界遺産センターから浅間大社、そして富士宮やきそばから「富士下山仏」へとめぐりました。

1回目2回目3回目4回目をみる)

「富士下山仏」は、富士宮の地酒蔵・高砂酒造さんにありました。
見学は無料で、下山仏と酒蔵の造りについても詳しく解説してくれて、最後には試飲もついてきます。


富士下山仏を安置する「薬師蔵」を見学

やっぱり神仏拝んだあとは、お酒ですよね。富士山の水で作ったお酒、なかなか特徴がありましたよ。

ここ富士宮の高砂酒造は昔ながらの「山廃造り」を今でもしっかり受け継ぎ、蔵の味わいを守っています。
口に含むと、どっしりとコクがあって、うまみがたっぷり、バランスのよい酸も感じる。主張が強い第一印象だけど、飲み込んだ後はキレがよく、すぐ次を飲みたくなる。このへんは富士山の清冽な水を使っているからなのか。
冷もいいけど常温やお燗でじっくり飲みたい。魚のお刺身よりも焼き鳥や鳥モツなど富士山界隈にある郷土の肉料理が合いそう。


代表銘柄のひとつ「中屋」。あと「高砂」の純米も購入したけど写真撮るのも忘れて飲んでしまった

「山廃造り」ってなんだ、という話ですけど、戦前までよくあった古い作り方のことで、このあとわかります。

酒造りというのは目に見えない微生物たちの活動でできていて、昔の人はその不思議なはたらきに神仏を見出すのもわかる気がします。

その酒造りのふしぎをひもとくので、ちょっとおつきあいください。

日本酒の原料はもちろん米ですが、もう少し詳しく言うと、米麹、米、水、そして酵母がいろいろ作用してできます。
米麹は、米に麹菌をはびこらせて米を糖化させたもの。要は甘酒です(甘酒には麹のものと酒粕のものがあるけど麹のほう)。


酒造りの道具が展示

甘酒の甘みは、麹菌(の酵素)が米のデンプンを分解して作られているのです。
その糖分を、酵母が食べてアルコールに分解。炭酸ガスも出てブクブク泡も出ます。
酵母がすっかり活動を終えてアルコールがよい加減にできたら濁り酒のできあがり。これを絞って透明な清酒になる。


酒造りの工程がイラストで描いてある。これ自体かなり古そう

なぜ神仏研究家の宮澤やすみがお酒に詳しいかというと、駆け出しライターのころお酒の取材記事もやっていたからです。

ともあれ、ざっと日本酒造りを概観したものの、実際はなかなか複雑でむずかしいものです。
なんせ甘~い麹とおいしい米というのは、人間だけでなく微生物も大好きでして、うまく酵母が食いついてくれたらよいのですが(発酵)、その他余計な雑菌が食いつくと腐っちゃうんですね(腐敗)。

発酵か腐敗かの分かれ道は、酵母 vs 雑菌の勢力争いといえます。
この戦いに、人間たちは酵母軍を援護する作戦に出る!


ずらり並ぶ巨大なタンク。訪問したのは5月で今期の造りは終わっていた

ここで、雑菌だけ死んでもらって、酵母だけ良好に活動してもらうという、じつに都合よい状況を作り出してくれるのが「乳酸」です。
米、米麹、酵母を混ぜた「酒母(しゅぼ)」に乳酸が加わると酸っぱくなって、雑菌は活動できません。
ところが、酵母は酸性の環境で良好に活動するので好都合というわけ。

戦後の現代酒造では、人工の乳酸を入れてこの状況を作るんですが、昔はそんなのなかったから、自然の乳酸菌が降りてきて乳酸を出してくれるのを待っていた。
酒蔵に自然に生きている乳酸菌。これにどうやって働いてもらうかが、昔の酒造りで大変なことだったらしいです。


「下山仏」があるのは酒造りの作業場。蔵人は仏像を横目にしながらタンクに櫂棒を差し入れて酒造りをする

こうした、昔ながらの自然の乳酸菌を使う酒造りは、現代に見直されていて(もしくは延々と伝統が受け継がれていて)、この製法のことを「生酛(きもと)造り」とか「山廃造り」といいます。高砂酒造さんはこれを今でもやっているんですね。

仏像を守る人たちは、酒の味もしっかり守り継いでいるという、古いものを後世に伝えていく大事な仕事をなさっているのでした。

それにしても、酒造りは、麹菌、酵母、乳酸菌まで、目に見えないものを扱うもので、それはもう古代であれば確かに神がかりの奇跡的な所業だったことでしょうね。
酒と寺社の関係は深いもので、またの機会に触れたいと思います。


蔵の裏手にある小さなお社。やはり酒造りと神仏は深い関係

そして気になる(?)のが、「生酛」と「山廃」のちがいですが、「酛すり」という作業(米、米麹、酵母を混ぜた酒母を櫂棒でこすって米を溶かす作業)があるかないか、のちがいです。
「酛すり」は厳冬期の夜中にやる重労働で、労働歌でも歌いながらの作業風景が想像されます。


味わいのある広告看板。ここでも「山廃」推し

この作業のことを「山卸(やまおろし)」とも呼びますが、この山卸をしなくてもよくなったのが「山卸廃止=山廃」造り。これは、麹の能力を最大限に引き出すことで、人間が重労働しなくても米を溶かすように工夫した製法です。
どちらも、自然の乳酸菌を活用した古風な作り方であることは共通します。


5週にわたって、「富士山下山仏」に逢いにいく静岡県富士宮の旅をおとどけしました。
高砂酒造では、毎年の酒造りの前に「下山仏」を拝み作業の安全と酒の出来を祈るそうです。


それでは聴いてください。
セルジュ・ゲンズブールで「うまうまマンボ」(Manbo Miam Miam)。



酒蔵見学-高砂酒造WEBサイト
https://fuji-takasago.com/kengaku


(過去記事)
富士山”下山仏”に会いにいく旅 その1 世界遺産・富士山
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20220517-2/
富士山”下山仏”に会いにいく旅 その2 富士山本宮浅間大社
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20220524-2/
富士山”下山仏”に会いにいく旅 その3 やきそば神社
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20220531-2/
富士山”下山仏”に会いにいく旅 その4 下山仏と廃仏毀釈
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20220607-2/
富士山五合目まで車で行ける深い理由と富士講の話
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20190806-2/

明治の神仏分離ってなに?「立山の明治維新」展
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20181009-2/



---おしらせ---

本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.
宮澤やすみソロライブ「ひとりワロス」
2022/7/24(日)15:30開演
上野広小路/御徒町 ワロスロード・カフェ
本職の小唄など三味線音曲をゆるりと。詳細↓
http://yasumimiyazawa.com/live.html


2.
日本書紀を歌った新作MV「欣喜雀躍」宮澤やすみ アンド・ザ・ブッツ


宮澤やすみYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/


3.
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)



宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m