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第319回 諏訪・神仏の旅⑤ 諏訪大社ゆかりの仏像たち-その3-
”こういうことを学べるから日本各地を旅したくなる--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。最近、小鼓(いよーポンッって打つやつ)を入手し、打ち過ぎて右腕が痛い宮澤やすみです。
そんな中、ここでは長野・諏訪の旅を続けて書いております。
前回は諏訪大社下社ゆかりの仏像をみてきました。
今回は諏訪大社上社のほうの話です。
2022年秋の「諏訪神仏プロジェクト」では、諏訪大社ゆかりの寺宝、仏像が一斉公開されました。
私がその中で注目したのが、法隆寺の仏像群です。
法隆寺といっても、奈良ではなくて諏訪です。
富士山を見ながら高原ドライブ。めざすは地元の仏像
そこは富士見町の乙事(おっこと)という集落で、JR上諏訪駅から車で24kmほどあるところ。
諏訪湖から南東方向にひたすら走らせた先の、八ヶ岳の麓にある、高原の空気とキャベツがおいしい集落です。
法隆寺は観音堂だけが残されていて、仏像群はその隣の乙事公民館の2階で保管。
ずらりと仏像が並んでいます。
乙事公民館
諏訪の仏教は密教(新義真言宗から智山派など)が主流なので、原則として本尊は大日如来(しかしこのあと真の本尊が登場)。
ほかにも不動明王が2体ほど目を引きました。
大日如来坐像
法隆寺は江戸初期の承応元年(1652年)の創建。諏訪大社上社にあった神宮寺の塔頭である妙法院に属したため、明治の神仏分離に際して妙法院の仏像を引き取ることになったのでした。
小さくてかわいらしい造形の毘沙門天と不動明王。地元の人が今も拝む
ここで仏法紹隆寺のご住職から面白い話をうかがいました。
大日如来の台座がかなり大きいのですが、その中に普賢菩薩像が入っていたというのです。
その普賢菩薩は、現在は仏法紹隆寺に安置されています。おりこうさんの象が大人しく伏せているのがかわいいです。
)
普賢菩薩騎象像 写真提供:仏法紹隆寺
仏法紹隆寺は、この連載で何度も紹介しているとおり、諏訪大社上社ご祭神の本地仏である普賢菩薩を祀っているお寺で、中世には藩の祈願寺として隆盛した、上諏訪地域の中心的寺院です。
仏法紹隆寺に安置されている”諏訪大明神御本地普賢菩薩”。「象が立ってるほう」と覚えてください。この像の詳細は本記事下部の”過去記事”参照
今回の普賢菩薩はこれとは別の像で、「象が伏せてるほう」。上社妙法院の本尊だったと思われます。
情報を整理しましょう。
諏訪大社上社の境内にはいくつも寺院があり、中心寺院は神宮寺というお寺。その普賢堂の本尊は「象が立ってる方」の普賢菩薩。
いっぽう妙法院は神宮寺の塔頭で、「象が伏せてる方」は妙法院にあった。
その妙法院の末寺が法隆寺で、本尊は大日如来となります。
制作された時代を確認すると、普賢菩薩は鎌倉時代、法隆寺の大日如来は江戸時代の作だから、大日如来のほうが後に造られたことになります。
妙法院は明治の神仏分離で廃絶となるので、そのときに乙事の法隆寺本尊・大日如来の台座内に納められたのでしょうか。具体的な経緯は分かっていません。
いろんな事情があったんでしょうが、結果的に、密教の本尊である大日如来の中に諏訪の神の魂(本地仏という形で)が納められた形になりました。
普賢菩薩が収められていた大日如来の台座。たしかにかなり大きい
諏訪独自の信仰と奈良から来た真言密教が融合したハイブリッドスタイルが興味深いですね。
来てよかったです。
仏像の勉強をしていると、密教だから大日如来に不動明王、という組み合わせを学びますが、実際は教科書通りにいかず地域に合わせた信仰形態がある。
こういうことを学べるから日本各地を旅したくなるのです(だれか旅費をください)。
ここまでご案内いただいた仏法紹隆寺の岩崎住職の解説に、たまたま居合わせたご近所の母娘のお二人も興味津々
それでは、諏訪独自の信仰のナゾを紐解くべく、いよいよ諏訪大社上社に迫っていきたいと思います(といいつつ次回もお寺に行きますが)。
そんな中、2月立春からの早稲田大学オープンカレッジ、お越しください。
Google Mapを駆使して、江戸東京の地形と高低差から信仰史をお話します。
特別に三味線と小唄の実演も交えて吉原の神仏の関係などいろいろ。
早稲田大学エクステンションセンター中野校
■空から映像で実感! 地形と寺社で解き明かす東京のナゾ
~古代から近代まで歴史の痕跡を探る、バーチャルさんぽ~
2023年2月4日から全3回 詳細↓
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/57581/
それでは聴いてください。
ジャパンで「クワイエット・ライフ」。
(過去記事)
諏訪大社ゆかりの仏像一斉公開「諏訪神仏プロジェクト」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20221101-2/
諏訪・神仏の旅① 「万治の石仏」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20221129-2/
諏訪・神仏の旅② 諏訪大社の本地仏-普賢と千手観音
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20221206-2/
諏訪・神仏の旅③ 諏訪大社ゆかりの仏像たち
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230110-2/
諏訪・神仏の旅④ 諏訪大社ゆかりの仏像たち-その2-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230117-2/
---おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
古代史を歌った新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。最近、小鼓(いよーポンッって打つやつ)を入手し、打ち過ぎて右腕が痛い宮澤やすみです。
そんな中、ここでは長野・諏訪の旅を続けて書いております。
前回は諏訪大社下社ゆかりの仏像をみてきました。
今回は諏訪大社上社のほうの話です。
2022年秋の「諏訪神仏プロジェクト」では、諏訪大社ゆかりの寺宝、仏像が一斉公開されました。
私がその中で注目したのが、法隆寺の仏像群です。
法隆寺といっても、奈良ではなくて諏訪です。
富士山を見ながら高原ドライブ。めざすは地元の仏像
そこは富士見町の乙事(おっこと)という集落で、JR上諏訪駅から車で24kmほどあるところ。
諏訪湖から南東方向にひたすら走らせた先の、八ヶ岳の麓にある、高原の空気とキャベツがおいしい集落です。
法隆寺は観音堂だけが残されていて、仏像群はその隣の乙事公民館の2階で保管。
ずらりと仏像が並んでいます。
乙事公民館
諏訪の仏教は密教(新義真言宗から智山派など)が主流なので、原則として本尊は大日如来(しかしこのあと真の本尊が登場)。
ほかにも不動明王が2体ほど目を引きました。
大日如来坐像
法隆寺は江戸初期の承応元年(1652年)の創建。諏訪大社上社にあった神宮寺の塔頭である妙法院に属したため、明治の神仏分離に際して妙法院の仏像を引き取ることになったのでした。
小さくてかわいらしい造形の毘沙門天と不動明王。地元の人が今も拝む
ここで仏法紹隆寺のご住職から面白い話をうかがいました。
大日如来の台座がかなり大きいのですが、その中に普賢菩薩像が入っていたというのです。
その普賢菩薩は、現在は仏法紹隆寺に安置されています。おりこうさんの象が大人しく伏せているのがかわいいです。
)
普賢菩薩騎象像 写真提供:仏法紹隆寺
仏法紹隆寺は、この連載で何度も紹介しているとおり、諏訪大社上社ご祭神の本地仏である普賢菩薩を祀っているお寺で、中世には藩の祈願寺として隆盛した、上諏訪地域の中心的寺院です。
仏法紹隆寺に安置されている”諏訪大明神御本地普賢菩薩”。「象が立ってるほう」と覚えてください。この像の詳細は本記事下部の”過去記事”参照
今回の普賢菩薩はこれとは別の像で、「象が伏せてるほう」。上社妙法院の本尊だったと思われます。
情報を整理しましょう。
諏訪大社上社の境内にはいくつも寺院があり、中心寺院は神宮寺というお寺。その普賢堂の本尊は「象が立ってる方」の普賢菩薩。
いっぽう妙法院は神宮寺の塔頭で、「象が伏せてる方」は妙法院にあった。
その妙法院の末寺が法隆寺で、本尊は大日如来となります。
制作された時代を確認すると、普賢菩薩は鎌倉時代、法隆寺の大日如来は江戸時代の作だから、大日如来のほうが後に造られたことになります。
妙法院は明治の神仏分離で廃絶となるので、そのときに乙事の法隆寺本尊・大日如来の台座内に納められたのでしょうか。具体的な経緯は分かっていません。
いろんな事情があったんでしょうが、結果的に、密教の本尊である大日如来の中に諏訪の神の魂(本地仏という形で)が納められた形になりました。
普賢菩薩が収められていた大日如来の台座。たしかにかなり大きい
諏訪独自の信仰と奈良から来た真言密教が融合したハイブリッドスタイルが興味深いですね。
来てよかったです。
仏像の勉強をしていると、密教だから大日如来に不動明王、という組み合わせを学びますが、実際は教科書通りにいかず地域に合わせた信仰形態がある。
こういうことを学べるから日本各地を旅したくなるのです(だれか旅費をください)。
ここまでご案内いただいた仏法紹隆寺の岩崎住職の解説に、たまたま居合わせたご近所の母娘のお二人も興味津々
それでは、諏訪独自の信仰のナゾを紐解くべく、いよいよ諏訪大社上社に迫っていきたいと思います(といいつつ次回もお寺に行きますが)。
そんな中、2月立春からの早稲田大学オープンカレッジ、お越しください。
Google Mapを駆使して、江戸東京の地形と高低差から信仰史をお話します。
特別に三味線と小唄の実演も交えて吉原の神仏の関係などいろいろ。
早稲田大学エクステンションセンター中野校
■空から映像で実感! 地形と寺社で解き明かす東京のナゾ
~古代から近代まで歴史の痕跡を探る、バーチャルさんぽ~
2023年2月4日から全3回 詳細↓
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/57581/
それでは聴いてください。
ジャパンで「クワイエット・ライフ」。
(過去記事)
諏訪大社ゆかりの仏像一斉公開「諏訪神仏プロジェクト」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20221101-2/
諏訪・神仏の旅① 「万治の石仏」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20221129-2/
諏訪・神仏の旅② 諏訪大社の本地仏-普賢と千手観音
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20221206-2/
諏訪・神仏の旅③ 諏訪大社ゆかりの仏像たち
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230110-2/
諏訪・神仏の旅④ 諏訪大社ゆかりの仏像たち-その2-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230117-2/
---おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
古代史を歌った新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
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雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m