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篁 千礼(たかむら ちひろ)

1962年 東京生まれ。高校卒業後、女子美術大学に入学(油絵専攻) 。
     その後、太平洋美術研究所に籍を移し本格的に洋画を学ぶ。
1985年 弱冠23才の若さで、銀座交詢社ビル ギャラリータカノで初個展を開く。
1987年 かねてから魅了されていた彩色木彫作家の平野富山氏に入門。
     富山氏亡きあとは後継の平野千里氏に師事。以後20数年にわたり修行を積む。
     仏像のほか縁起物・歌舞伎・能等の古典芸能を題材とした様々な木彫を手掛ける。
     代表作は「孔雀明王」「吉祥天」等
     (平野千里の木彫 西宮正明著 光村推古書院 2001年11月参照)
2012年 平野氏より独立し埼玉県北本市にアトリエ「篁千礼彩色研究所」を設立。
     手造りの温かみを基調とした誰にでも楽しめる作品から芸術性の高いものまで、
     幅広い創作活動を展開する。

彩色の系譜

仏像は本来、金色の極彩色に彩られ、仏像に彩色を施すことは明治時代以前は当たり前のことでした。
しかし明治以降は西洋彫刻のフォルム至上主義の浸透により、いつしか仏像への彩色は邪魔なものとされるようになりました。そのような風潮に反し、 日本古来の彩色木彫を大きく復活させたのが、日本彫刻界の巨星であり文化勲章を受章した平櫛田中です。 そして、その彩色のほとんどを任されていたのが平野富山氏で、富山氏の後継者である平野千里氏が私の師匠となります。  

極彩色の魅力

極彩色に彩られた仏像を前にすると、その美しさよりも一種の奇怪さを感じるのではないでしょうか。
色彩は何よりもストレートに心に反応するため、その溢れんばかりの色に混乱するのは当然です。
神仏に向き合うと「美しくしたい。畏怖の念を表現したい」との思いが溢れ出てきます。驚くほど荘厳な絢爛豪華さ……彩色は実に様ざまな感覚を掘り起こしてくれます。
色と色との響き合いを味わう中で、私は美しさとは“調和”だと感じるようになりました。日本画のような平面ではなく起伏に富む立体像に描く場合は、絵の具の性質ごとに膠の濃度等を調整しなくてはいけません。さらに気温や湿度も関係してくるため、どうしても経験によって培われた感覚が必要となります。
彩色は根気のいる作業ですが、いつしか瞑想状態に入ったように時間の感覚がなくなっていることがあります。強烈な原色同士の色彩によるマントラ、まさに調和の取れた時間への導きのように思えます。

道具について

仏像の彩色には日本画の絵の具を用います。
具体的には顔料(岩絵具、水干)、膠、胡粉、墨、金箔、金泥などで、天然岩絵具と呼ばれる顔料の中には、例えるなら宝石のような粉が見られます。水晶、辰砂、孔雀石、藍銅鉱、ラピスラズリなど様ざまな鉱石、半貴石を砕いて作った、水に解けない微粒子。 それらは本当に美しく、深く、豊かな輝きを持っていて、色褪せることなく、時間とともに落ち着き、より美しく造形と同化していきます。
色の中では特に「金」が重要で、単に輝きを与えるだけでなく、その一色が加わるだけで、どのような色同士でも調和させるという、本当に不思議な現象が起こります。

制作工程

彩色を施すにあたり、まずは仏像それぞれの性格、特性を表す紋様や、バランスのとれた配色を構想します。
実際の彩色作業としては、基本となる2種類の胡粉作りから始めます。動物のゼラチン質で作られた膠で、牡蠣や蛤の殻から作られる粉(胡粉)を練った基本の「白」を木材の中に染み込ませ、木材の割れや絵の具の剥落を防ぎ強度を増す「地塗り胡粉」と、もう一つは、実際の彩色に用いる粒子の細かい「仕上げ胡粉」です。
下塗りを施した上に膠で練った岩絵具を置き、さらに金箔、金泥などで紋様を描き込むため、膠や胡粉の状態の良し悪しが仕上がりに響くため、非常に重要となります。

作品に対する思い

彩色は、脈々と受け継がれてきた熟練の技術で成り立っています。絵の具、筆、膠……その技法に必要とされるものがどれか一つでも欠けると本来の形にならないため、すべてのことがつながりを持ち、存在していることに気付かされます。
後継者不足を危惧する声が次々と聞こえてくる現状の中で、仕事を続けていく。そうして技術が継承されていくことに意義を感じています。
時間の経過とともに風化していく姿。修理され再生した姿。その時代ごとの感覚の中で新たに生み出される初々しい姿。それぞれに豊かな趣を持つ優れた色彩や造形に触れ伝わってくる感覚に、自分自身の生命、そして心躍るような生の喜びを感じます。
美しくも調和の取れた表現を目指し、作品を作り続けていきたいと思います。