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第469回 大西茂は大日如来を見たのか? ”超無限”の作品展「大西茂 写真と絵画」
”「超無限」とはもしかして、真理そのものを表す法身である「大日如来」のことを言ってるのかなと――”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。ひさしぶりにYoutubeにミュージックビデオをアップした宮澤やすみです。デヴィッドボウイの曲を日本舞踊を交えて演舞しております。この記事末尾に貼ってあります。
そんな中、東京ステーションギャラリー「大西茂 写真と絵画」のプレス内覧会に行ってきました。
大西茂という作家をご存じなくても心配いりません。美術界でも長らく存在を忘れられていた人です。
しかし、展示を見たらこれがすこぶる面白かった。
きっと、本コラム読者で仏教哲学に興味ある人にはおすすめです。

仏塔をモチーフにしてはいるがもはや仏塔ではない。《題不詳》1950年代 MEM
展示は抽象的な写真と絵画の作品が並びますが、そこに通底するのは「ものの存在」の根本を問う哲学的なテーマがあります。
勉強ができすぎた大西さんは、まず心霊現象に興味をもち、そこから世界の構造の謎を解こうと独自の研究を積み重ねます。その時用いられたのは、全世界で共通の言語とも言える数学。
その論文も展示されています。
その数学で表された独自理論を「超無限」と名付けてさらに深めていきますが、同時に行われたのが写真表現でした。

写真作品から《題不詳》1950年代 MEM
現像液の温度や刷毛で現像液を無造作に塗るストロークで生み出される画面は、どこか水墨画のよう。
展示後半にある絵画作品も次第に水墨画の様相を呈するので、本人の中でもそのような意識があったんでしょうか。

水墨画に見えるがこれも写真作品。《ポプラ》1957年頃 MEM
数学では理論的な展開をするものの、作品では直観と偶然性による抽象作品を生み出していたのでした(学芸員さんは”すべて数学の理論に依っている”とおっしゃっていましたが)。
そんな大西茂の作品ですが、これはもう個々の作品に没入するより、展示室全体に並ぶ作品群を体で受け止めるのがよいかと思います。
そうしていると、大西さんのいう「超無限」の世界観が、頭ではなく身体で伝わるような、大西さんのいう「直覚的な」かたちで伝わるような気がします。

絵画作品展示風景
大西さんの理論をまとめたノートも展示。
――定義[I.1]超無限とは、あらゆる濃度を乗り越えて複雑、且つ、単一より、更に単純な状態である。――
という言葉で始まる論文に、複雑な数式と抽象画が続いています。
そのノートや図録解説には、仏教好きにはなじみ深い「悟り」という言葉も見えます。
恐れながら自分なりに解釈してみると、
ものの成り立ち、ものの存在の根本を追求して「悟り」に至るとする。その「悟り」に至る”精神活動の状況を描写”するために、理論的には数学を、直覚的には抽象絵画を用いて超無限を表現した、ということらしいです…まあ詳細は展示や図録を読んでください。
仏教的な「縁」とか「空」に通じる論も見えます。

美術館は東京駅舎内にあり、創建当初の古いレンガ壁が作品を演出する
そうなると、大西さんの「超無限」とはもしかして、真理そのものを表す法身(ほっしん)である「大日如来」のことを言ってるのかなと思ったりしました。
密教では、宇宙全体であり単一の中心でもある(一即多 多即一)を表すというのが大日如来だといいますから。

《自筆文書》より。大西氏の理論もほぼ宗教に近いところにありそうだ
つまり、(個人的なの感想ですが)、大西さんとしてはこれを「超無限」という独自の数学言語で表現し、これはキリスト教では「主」とか「神」、仏教(密教)では「大日如来」、禅は「空」というとか、さらには素粒子論での「量子もつれ」とか、
言葉がちがうだけで意味合いとしては共通している(しているところがある)んじゃないかと感じた次第です。
その人が居る世界での言語で語られるだけで、同じようなテーマを人間は追求してきたのだなと、展示を見て思いました。
まさに大西さんの提唱する「直観」で思っただけなのですがね。

《空間的直観》1969年 京都国立近代美術館
こうした創作物は、友人の美術関係者に助けられて世に出て、ヨーロッパのアンフォルメル運動を先導したミシェル・タピエとの交流から海外に知られるようになります。
大西さん本人は芸術で身を立てようと思っていなかったので、〇〇展入選などはなく、△△主義や××イズムといった派閥とも無縁。
それでも、戦後1950年代に広がったアンフォルメルを含む抽象表現の潮流のなかで注目されたそうです。
昨今のSNSでは、自分で自分を熱烈に売り込むのが当たり前になっていますが、本人の意思に関わらず周囲が勝手に盛り上がったことで世に出るという、大西茂氏の出世パターンはうらやましくもあります。それだけ作品の力がすごかったということでしょう。

大西の絵画は、アンフォルメルなどの抽象表現が世界的ブームだった1950年代にちょうどマッチした
それでは聴いてください。
宮澤やすみ で「レッツダンス David Bowie Japanese cover」
大西茂 写真と絵画
2026年1月31日(土)~3月29日(日)
東京ステーションギャラリー
詳細https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202601_onishi.html
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https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240618-2/
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https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240709-2/
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https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240220-2/
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https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20250304-2/
阿弥陀か?観音か? ブランクーシ彫刻のフォルムにみえるもの
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240611-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
早稲田大学オープンカレッジ(中野キャンパス)
【カミとホトケの秘めた縁】
―神仏習合/分離でひもとく、いにしえの信仰のかたち―
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/66458/
※期間限定 入会金無料キャンペーン中
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
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こんにちは。ひさしぶりにYoutubeにミュージックビデオをアップした宮澤やすみです。デヴィッドボウイの曲を日本舞踊を交えて演舞しております。この記事末尾に貼ってあります。
そんな中、東京ステーションギャラリー「大西茂 写真と絵画」のプレス内覧会に行ってきました。
大西茂という作家をご存じなくても心配いりません。美術界でも長らく存在を忘れられていた人です。
しかし、展示を見たらこれがすこぶる面白かった。
きっと、本コラム読者で仏教哲学に興味ある人にはおすすめです。

仏塔をモチーフにしてはいるがもはや仏塔ではない。《題不詳》1950年代 MEM
展示は抽象的な写真と絵画の作品が並びますが、そこに通底するのは「ものの存在」の根本を問う哲学的なテーマがあります。
勉強ができすぎた大西さんは、まず心霊現象に興味をもち、そこから世界の構造の謎を解こうと独自の研究を積み重ねます。その時用いられたのは、全世界で共通の言語とも言える数学。
その論文も展示されています。
その数学で表された独自理論を「超無限」と名付けてさらに深めていきますが、同時に行われたのが写真表現でした。

写真作品から《題不詳》1950年代 MEM
現像液の温度や刷毛で現像液を無造作に塗るストロークで生み出される画面は、どこか水墨画のよう。
展示後半にある絵画作品も次第に水墨画の様相を呈するので、本人の中でもそのような意識があったんでしょうか。

水墨画に見えるがこれも写真作品。《ポプラ》1957年頃 MEM
数学では理論的な展開をするものの、作品では直観と偶然性による抽象作品を生み出していたのでした(学芸員さんは”すべて数学の理論に依っている”とおっしゃっていましたが)。
そんな大西茂の作品ですが、これはもう個々の作品に没入するより、展示室全体に並ぶ作品群を体で受け止めるのがよいかと思います。
そうしていると、大西さんのいう「超無限」の世界観が、頭ではなく身体で伝わるような、大西さんのいう「直覚的な」かたちで伝わるような気がします。

絵画作品展示風景
大西さんの理論をまとめたノートも展示。
――定義[I.1]超無限とは、あらゆる濃度を乗り越えて複雑、且つ、単一より、更に単純な状態である。――
という言葉で始まる論文に、複雑な数式と抽象画が続いています。
そのノートや図録解説には、仏教好きにはなじみ深い「悟り」という言葉も見えます。
恐れながら自分なりに解釈してみると、
ものの成り立ち、ものの存在の根本を追求して「悟り」に至るとする。その「悟り」に至る”精神活動の状況を描写”するために、理論的には数学を、直覚的には抽象絵画を用いて超無限を表現した、ということらしいです…まあ詳細は展示や図録を読んでください。
仏教的な「縁」とか「空」に通じる論も見えます。

美術館は東京駅舎内にあり、創建当初の古いレンガ壁が作品を演出する
そうなると、大西さんの「超無限」とはもしかして、真理そのものを表す法身(ほっしん)である「大日如来」のことを言ってるのかなと思ったりしました。
密教では、宇宙全体であり単一の中心でもある(一即多 多即一)を表すというのが大日如来だといいますから。

《自筆文書》より。大西氏の理論もほぼ宗教に近いところにありそうだ
つまり、(個人的なの感想ですが)、大西さんとしてはこれを「超無限」という独自の数学言語で表現し、これはキリスト教では「主」とか「神」、仏教(密教)では「大日如来」、禅は「空」というとか、さらには素粒子論での「量子もつれ」とか、
言葉がちがうだけで意味合いとしては共通している(しているところがある)んじゃないかと感じた次第です。
その人が居る世界での言語で語られるだけで、同じようなテーマを人間は追求してきたのだなと、展示を見て思いました。
まさに大西さんの提唱する「直観」で思っただけなのですがね。

《空間的直観》1969年 京都国立近代美術館
こうした創作物は、友人の美術関係者に助けられて世に出て、ヨーロッパのアンフォルメル運動を先導したミシェル・タピエとの交流から海外に知られるようになります。
大西さん本人は芸術で身を立てようと思っていなかったので、〇〇展入選などはなく、△△主義や××イズムといった派閥とも無縁。
それでも、戦後1950年代に広がったアンフォルメルを含む抽象表現の潮流のなかで注目されたそうです。
昨今のSNSでは、自分で自分を熱烈に売り込むのが当たり前になっていますが、本人の意思に関わらず周囲が勝手に盛り上がったことで世に出るという、大西茂氏の出世パターンはうらやましくもあります。それだけ作品の力がすごかったということでしょう。

大西の絵画は、アンフォルメルなどの抽象表現が世界的ブームだった1950年代にちょうどマッチした
それでは聴いてください。
宮澤やすみ で「レッツダンス David Bowie Japanese cover」
大西茂 写真と絵画
2026年1月31日(土)~3月29日(日)
東京ステーションギャラリー
詳細https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202601_onishi.html
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--おしらせ---
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―神仏習合/分離でひもとく、いにしえの信仰のかたち―
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/66458/
※期間限定 入会金無料キャンペーン中
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html


