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第463回 阿弥陀か?薬師か? いわき湯本温泉の神社と仏像
”温泉の効能をもたらす神仏として祀られ――”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。クリスマスのジャズ演奏に三味線で加わるためリハをしている宮澤やすみです。とても楽しい演奏です。記事末「出演情報」リンクをご覧ください。
そんな中、令和7年も大詰め。まだ書いていなかった取材記を今年のうちに出しておきます。
この春に行ったのは、福島県いわき市のいわき湯本温泉。
温泉もいいけど、この地の神社と仏像が気になっていました。
(温泉もしっかり堪能しました)
だいたい、1000年以上歴史がある古い温泉地というのは、神仏信仰とつながっています。
ここいわき湯本温泉もその例にあたる古湯で、以前から気になっていたのでした。

取材した惣善寺の門前にある温泉施設「さはこの湯」。門前道はかつて花街として栄えた
まずやってきたのは湯本駅すぐの温泉神社。
御祭神は、薬祖神としてよく知られる少彦名命(スクナヒコナ)、大己貴命(オオナムチ)のペアに、えびすさんとしても信仰される事代主命(コトシロヌシ)。

いわき湯本の鎮守・温泉神社
古くはこの地の背後にそびえる湯ノ岳にあったお社が、各所に遷座して明和5年(1708)から現在地に鎮座しています。
そして、神社のお向かいに低山「観音山」と惣善寺があります。この惣善寺がかつては温泉神社の別当寺(神社を管理する寺)として機能していたそう。
神仏習合・分離に興味があるワタクシとしては避けて通るわけにいかず、突撃取材してきました。

惣善寺境内に寄り添う小さな山・観音山にはかつて観音堂があったそうだが焼失。それを偲ぶ銅像観音ほか各所に観音像が立っている
その前に、まず湯本温泉の信仰の原点である湯ノ岳に注目しましょう。
海上からの目印にもなる三角形の大きな山は、古くからこの地域の神体山として拝まれ、山岳信仰がさかんだったそうです(別地域の法海寺で現在も継承)。
湯ノ岳の古地名は「さはこ」といって、佐波古、三函、鯖湖(さばこ)、狭鉾(さほこ)といった漢字を当てます。
南東北には「さはこ」由来の地が各所にあります。どこが源流なのかわわかりませんが、温泉や信仰に関わる古い地名になっています。
ともかく、この湯ノ岳・旧名「三函山」の神を祀ったのが温泉神社の創建になります(代々の宮司家が佐波古氏)。
伝承では大同2年(807)徳一大師(東北地域に仏教を広めた伝説の僧)が十一面観音菩薩を祀ったといわれ、まさしく神仏習合時代の山への信仰が伺えます。
温泉神社をお参りしたあと、隣の惣善寺へ。
お願いすると本堂内陣に上げてくださいました。

美しく整備された境内。惣善寺
惣善寺の創建は大永2年(1522)の浄土宗寺院で、ご本尊は阿弥陀如来。
温泉の古い信仰に比べるとずいぶん時代がずれますが、仏像はお寺よりも古く建武2年(1335)の造像と判明しています。
この地域で鎌倉時代の仏像があるのは貴重。惣善寺として形になる以前から、ほかの別当寺があったんでしょうか。
以前取材した長野・諏訪の地域も、神仏習合が進んだのは鎌倉時代くらいからというし、中世は各地で神仏習合が進んだ時代でした。

惣善寺本尊・阿弥陀如来坐像
この阿弥陀像については、ご住職は「以前は薬師如来だったのではないか」とおっしゃっていました。
薬師如来の薬壺を外して、手だけ阿弥陀印(親指と人差し指などを付ける形)のものに付け替えたら阿弥陀如来になりますもんね。
というのも、だいたいの温泉地では、神社ではスクナコヒコナ、寺では薬師如来または十一面観音を祀るのがよくある神仏ラインナップで、どちらも温泉の効能をもたらす神仏として祀られます。
だから、推測の域を出ませんが、惣善寺になる前のこの阿弥陀如来像は、温泉を護る薬師如来だった可能性もあるのかもしれません。
お寺は何度も火災に遭い、明治維新の戊辰戦争での激戦地となって全堂焼失。
歴史を物語る記録類は一切残っていません。

花街の名残を感じる三味線供養塔。皮を用いる犬猫や馬の供養碑で、三味線のバチの形をしている
突撃弾丸取材で訪れたいわき湯本温泉でしたが、地元の人の協力でさまざまな情報を得ることができました(土地の歴史に詳しいという宇治山長谷寺ご住職にもたくさん教えていただきました)。
これからも、各地の古い温泉地と寺社を取材したいと思います。
早稲田大学の社会人講座(エクステンションセンター)でも、こうした話題をお話ししています。
記事末「おしらせ」からご参加ください。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツ feat. 大藪麻琴で「寄木造」。
いわき湯本 温泉神社(公式)
http://onsen-jinja.or.jp/
惣善寺
http://www.sohzenji.sakura.ne.jp/
■あわせて読む(関連記事)
温泉に「温泉寺」あり。その本尊は?(有馬温泉)
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20180723-2/
温泉寺もあれば神社もあります(有馬温泉)
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20180730-2/
白鷺が導いた下呂温泉の薬師如来
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20181120-2/
33年に一度の開帳!城崎温泉の秘仏に逢う -(全3回)-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20191210-2/
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20191217-2/
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20191224-2/
諏訪・神仏の旅⑥ 諏訪大社のご神体がお寺にあった
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230131-2/
新潟・弥彦神社の神仏分離-本地仏・阿弥陀如来-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240716-2/
新潟・弥彦神社の神仏分離-阿弥陀如来と毘沙門天-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240702-2/
新潟 弥彦 湯神社 温泉を守る「石薬師様」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20250729-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
早稲田大学オープンカレッジ(中野キャンパス)
【カミとホトケの秘めた縁】
―神仏習合/分離でひもとく、いにしえの信仰のかたち―
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/66458/
※期間限定 入会金無料キャンペーン中
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。クリスマスのジャズ演奏に三味線で加わるためリハをしている宮澤やすみです。とても楽しい演奏です。記事末「出演情報」リンクをご覧ください。
そんな中、令和7年も大詰め。まだ書いていなかった取材記を今年のうちに出しておきます。
この春に行ったのは、福島県いわき市のいわき湯本温泉。
温泉もいいけど、この地の神社と仏像が気になっていました。
(温泉もしっかり堪能しました)
だいたい、1000年以上歴史がある古い温泉地というのは、神仏信仰とつながっています。
ここいわき湯本温泉もその例にあたる古湯で、以前から気になっていたのでした。

取材した惣善寺の門前にある温泉施設「さはこの湯」。門前道はかつて花街として栄えた
まずやってきたのは湯本駅すぐの温泉神社。
御祭神は、薬祖神としてよく知られる少彦名命(スクナヒコナ)、大己貴命(オオナムチ)のペアに、えびすさんとしても信仰される事代主命(コトシロヌシ)。

いわき湯本の鎮守・温泉神社
古くはこの地の背後にそびえる湯ノ岳にあったお社が、各所に遷座して明和5年(1708)から現在地に鎮座しています。
そして、神社のお向かいに低山「観音山」と惣善寺があります。この惣善寺がかつては温泉神社の別当寺(神社を管理する寺)として機能していたそう。
神仏習合・分離に興味があるワタクシとしては避けて通るわけにいかず、突撃取材してきました。

惣善寺境内に寄り添う小さな山・観音山にはかつて観音堂があったそうだが焼失。それを偲ぶ銅像観音ほか各所に観音像が立っている
その前に、まず湯本温泉の信仰の原点である湯ノ岳に注目しましょう。
海上からの目印にもなる三角形の大きな山は、古くからこの地域の神体山として拝まれ、山岳信仰がさかんだったそうです(別地域の法海寺で現在も継承)。
湯ノ岳の古地名は「さはこ」といって、佐波古、三函、鯖湖(さばこ)、狭鉾(さほこ)といった漢字を当てます。
南東北には「さはこ」由来の地が各所にあります。どこが源流なのかわわかりませんが、温泉や信仰に関わる古い地名になっています。
ともかく、この湯ノ岳・旧名「三函山」の神を祀ったのが温泉神社の創建になります(代々の宮司家が佐波古氏)。
伝承では大同2年(807)徳一大師(東北地域に仏教を広めた伝説の僧)が十一面観音菩薩を祀ったといわれ、まさしく神仏習合時代の山への信仰が伺えます。
温泉神社をお参りしたあと、隣の惣善寺へ。
お願いすると本堂内陣に上げてくださいました。

美しく整備された境内。惣善寺
惣善寺の創建は大永2年(1522)の浄土宗寺院で、ご本尊は阿弥陀如来。
温泉の古い信仰に比べるとずいぶん時代がずれますが、仏像はお寺よりも古く建武2年(1335)の造像と判明しています。
この地域で鎌倉時代の仏像があるのは貴重。惣善寺として形になる以前から、ほかの別当寺があったんでしょうか。
以前取材した長野・諏訪の地域も、神仏習合が進んだのは鎌倉時代くらいからというし、中世は各地で神仏習合が進んだ時代でした。

惣善寺本尊・阿弥陀如来坐像
この阿弥陀像については、ご住職は「以前は薬師如来だったのではないか」とおっしゃっていました。
薬師如来の薬壺を外して、手だけ阿弥陀印(親指と人差し指などを付ける形)のものに付け替えたら阿弥陀如来になりますもんね。
というのも、だいたいの温泉地では、神社ではスクナコヒコナ、寺では薬師如来または十一面観音を祀るのがよくある神仏ラインナップで、どちらも温泉の効能をもたらす神仏として祀られます。
だから、推測の域を出ませんが、惣善寺になる前のこの阿弥陀如来像は、温泉を護る薬師如来だった可能性もあるのかもしれません。
お寺は何度も火災に遭い、明治維新の戊辰戦争での激戦地となって全堂焼失。
歴史を物語る記録類は一切残っていません。

花街の名残を感じる三味線供養塔。皮を用いる犬猫や馬の供養碑で、三味線のバチの形をしている
突撃弾丸取材で訪れたいわき湯本温泉でしたが、地元の人の協力でさまざまな情報を得ることができました(土地の歴史に詳しいという宇治山長谷寺ご住職にもたくさん教えていただきました)。
これからも、各地の古い温泉地と寺社を取材したいと思います。
早稲田大学の社会人講座(エクステンションセンター)でも、こうした話題をお話ししています。
記事末「おしらせ」からご参加ください。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツ feat. 大藪麻琴で「寄木造」。
いわき湯本 温泉神社(公式)
http://onsen-jinja.or.jp/
惣善寺
http://www.sohzenji.sakura.ne.jp/
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温泉に「温泉寺」あり。その本尊は?(有馬温泉)
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20180723-2/
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諏訪・神仏の旅⑥ 諏訪大社のご神体がお寺にあった
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新潟・弥彦神社の神仏分離-本地仏・阿弥陀如来-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240716-2/
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新潟 弥彦 湯神社 温泉を守る「石薬師様」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20250729-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
早稲田大学オープンカレッジ(中野キャンパス)
【カミとホトケの秘めた縁】
―神仏習合/分離でひもとく、いにしえの信仰のかたち―
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/66458/
※期間限定 入会金無料キャンペーン中
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html


